テレビ番組を観ていると、少し前からよく聞かれるようになったのが「コンプライアンス」という言葉。元来は「法令順守」という意味ですが、昨今のテレビ業界で「コンプライアンスが厳しくなった」というと、倫理観を重視するあまりに過激な企画が放送されづらいようなニュアンスも含んでいたりします。
視聴者としても、「少しぐらい攻めたことをしなくちゃ面白くないだろう」と思う場面があるいっぽうで、「この言動はひと昔前なら笑って許されたかもしれないけれど、今の時代はアウトでしょう!」とモヤモヤすることも......。私たちは今、テレビ表現の自由における、そんな過渡期にいるのかもしれません。
それは、時代の空気を読み、「笑い」というものを生み出す芸人についても同じ。特に、女性芸人はことさらこの変化の渦中にいると言えるようです。
「例えば容姿いじりがダメとか、年齢いじりがダメとか、社会からそういう要請が出ている中で、その役目を長く担わされてきた女性芸人たちはどんな風に当時を過ごし、いまどんなことを思っているのだろう」
そんな疑問から始まったのが、ライターの西澤千央さんによる「文春オンライン」の連続インタビュー企画「女芸人の今」。それに書き下ろしのコラム5本と特別対談を加え書籍化したのが、今回紹介する書籍『女芸人の壁』です。
登場する女性芸人は、山田邦子、清水ミチコ、中島知子、ホルスタイン・モリ夫、上沼恵美子、鳥居みゆき、納言・薄 幸などそうそうたる顔ぶれ。「自分たちの価値観」「社会の価値観」「テレビが求めている価値観」という三つの評価軸の間を生き抜いてきた、もしくは今まさに活躍中の女性芸人たちは何に葛藤し、何を目指そうとするのか。彼女たちの語る言葉は、日本社会における女性たちの立ち位置とも重なるものがあるかもしれません。
これまで華やかなスポットライトを浴びていたとしても、彼女たちの口からたびたび語られるのが「孤独」です。テレビに一本釣りされてブレイクした女性芸人が、「点」のまま孤立して消費されてしまうことは、今までにも見られる光景でした。
そんな中、ここから一歩踏み込んだ発言をしているのが、Aマッソの加納愛子さんです。著者の西澤さんは「孤独な女性芸人の、その点と点をつないで、線にしていきたいと。女同士で番組をやって、女同士でツッコミ合って、女が女を面白くしていく。このインタビューで女性芸人のシスターフッドを語ったのは、加納が初めてだった」と触れ、さらに「女性芸人に求められるものを、女性芸人の力で変えていく、それが今なのかもしれない」(同書より)と記します。
猛スピードで変化していく世の中の流れとともに、お笑い界の価値観も今後さらにアップデートされていくでしょう。そんな中で、女性芸人たちがどのように自身の笑いを表現していくのか、どんなニュータイプの作品を作り出すのかは、非常に楽しみでもあります。女性芸人のこれまでとこれからに光を当てた同書は、画期的な一冊と言えるかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]