もうひとつの難しい点として、禁止を実行する方法についても、とても慎重に考えなくてはならない。シカゴでは2014年に、小売店での薄い使い捨てレジ袋の無料配布が禁止された。小売店はどう対応したか? 厚いレジ袋を配布したのだ。厚いレジ袋なら再利用できるという触れ込みだったが、もちろんほとんどの客がすぐに捨ててしまった。環境からプラスチックを追放するつもりが、かえって増やす結果になってしまった。

実験して、改善していく

 実験は学習につながり、学習はさらによい実験につながる。

 カリフォルニア州では2016年に住民投票でレジ袋の全面禁止が決まった。厚い袋の抜け穴もなかった。だが禁止後に、今度はゴミ箱用の小さいポリ袋の売上が急増した(おそらく店から持ち帰ったレジ袋を、家のゴミ袋にしたり、飼い犬の糞を拾ったりするのに使っていた人が一定数いたのだろう。だからレジ袋がなくなると、代用品を買い始めた)。

 経済学者レベッカ・テイラーの研究によると、このケースではレジ袋禁止によってプラスチックゴミは削減されたが、ほかの袋の使用が増えたせいで削減効果の28.5%が相殺されたという。

 だがたとえそうだとしても、相殺されたのは100%ではなく、28.5%にすぎない。禁止によって使い捨てのプラスチックゴミが大幅に減ったことは間違いない(おまけに、この問題を分析するために誰かがレジ袋の代用品の売上を注意深く追跡してくれたおかげで、フィードバックの情報源が1つ増えた)。

 予想もしなかった影響も生じた。2017年にサンディエゴで危険なA型肝炎が流行したのは、レジ袋が不足したせいとも言われる。なぜだろう? ホームレスの人は排泄にレジ袋を使う習慣があった。レジ袋が手に入りにくくなると、排泄物を衛生的に処理できなくなったのだ。

「学習を続ける」ことで前進できる
 僕がこの研究を調べ始めたときに感じた、圧倒されるような、がっかりするような、いらいらするような気持ちを、もしかするとあなたも持ったかもしれない。ただのレジ袋の政策でさえ、複雑きわまりない影響をおよぼすのなら、困難な問題を解決できる望みなどあるのだろうか?

 僕を袋小路から引っ張り出してくれたのは、「ごまかしたり固まったりせずに学ぼう」という、ドネラ・メドウズ博士の呼びかけだった。僕らは困難のなかにあっても、何かを学んでいる。社会全体として学習しつつあるのだ。

 たとえばレジ袋禁止政策の影響を分析するために、何が必要かを考えてみよう。

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