「格差社会」という言葉が流行語になったのは2005年。それから15年以上の年月が経ち、今ではすっかり浸透した言葉になっています。その具体的な例として「地域による格差」を思い浮かべる人も少なくないでしょう。
特に東京は、経済資本や文化資本が最多の人から最少の人までが狭い空間に共住しています。書籍『東京23区×格差と階級』の著者・橋本健二氏は「東京はまぎれもなく、巨大な階級都市である」(本書より)といいます。
本書は、そんな東京23区を格差に関するさまざまなデータをもとに詳しく分析。その実態を紹介するとともに、「階級都市」に潜む危うさをどのように克服するべきかまで考えをめぐらせた一冊です。
まず、階級都市・東京の空間構造として覚えておきたいのが、「中心と周縁」「東と西」の二つの原理。「住宅。土地統計調査」と「国勢調査」から2015年度の東京23区の地域別平均世帯年収を推定した結果、所得水準から見て、次のことがわかると橋本氏は言います。
第一に「中心=都心部は、周縁=周辺部より所得水準が高い」こと、第二に「西側は東側より所得水準が高い」こと。これは23区において、資本家階級が中心に多くて周縁で少なく、労働者階級が東側で多く西側で少ないから。しかも近年、資本家階級の都心への集中傾向は強まっており、その格差は拡大傾向にあるといいます。
東京が異なる風土や文化を持つ多様な地域から成り立っていること自体は、ひとつの魅力として捉えられるでしょう。しかし、ここで問題となるのが多様性とともに階級性も大きく絡んでくる点。人はしばしば自らの社会的地位を誇示するために、所得や地位が上がるにしたがって、それにふさわしいとされる地域に住もうとします。このことが「地域の格差を再生産し、固定化させる」と橋本氏は指摘します。また、教育格差を生み出したり、地域間の対立を激化させたりする弊害も挙げられます。
また、現代社会には、資本家階級と労働者階級の中間に立つ「新中間階級」も存在します。彼らは1980年代の段階では明らかに西側に多かったけれど、2015年には都心へと進出するようになっているとデータから読み取れます。これは、都心周辺では旧中間階級や零細資本家階級が減少し、新中間階級にその座を譲るようになったということ。古く貧しい階級が減少し、かわって豊かな階級が増加することを意味する「ジェントリフィケーション」(都市の富裕化、高級化)が、東京では特に大きな問題もなく進行してきたわけです。
このジェントリフィケーションについて、橋本氏は「マジョリティとマイノリティ、新中間階級と労働者階級などが、異なる地域に棲み分けしている社会は、望ましい社会とはいえない。このような社会では、民族や階級の間の対立はなくならず、機会の平等は保障されず、社会は分断されたままとなる」(本書より)と考えます。そのために、非・階級社会に向けての東京都の住宅政策の見直しなどを橋本氏は訴えかけています。
一億総中流社会は今ではもう昔のこと。格差がどれほど広がっているのか、本書から垣間見ることができるでしょう。本書で取り上げているのは東京23区だけですが、これは日本社会の縮図とも言えるかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]