「何度も下書きしましたが、台詞は工夫なし。自分の中から出てきたもの。どの作品も、体験の断片が関わっています」

「対人関係」がうまくいかず、誤解されやすい人たちが登場人物というのも、小田嶋さんらしい。「殺し」を犯した少年のその後を描いた一連の短編も印象深い。橋の欄干を歩く危うげな少年に、失業中の<私>がかけた言葉は、人生への助言のように響く。

「(猫殺しはフィクションですけど)欄干の上は昔、自分も歩いたことがありました。細かいところまで読み込んでいただき、ほんとうに感謝感激、雨霰(あめあられ)です」。この後半部分は、ちょっとおどけたように口にしていたという。

 葬儀はしないでという本人の意思を尊重しつつ、熟慮の末「問い合わせのあった人たちにはお伝え」して先日、送別会が開かれた。還暦を機に習い始めた小田嶋さんのギターの先生が、会場で奏でるボブ・ディランの曲が良かった。(朝山実)

週刊朝日  2022年7月22日号

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