
■30歳でコレクターに
一歩踏み込んで、初めて本格的な作品を買ったのは30歳の時だ。パウル・クレーの作品で、「オークションで落札した時は、家中跳び回って喜んだ」。
そこからいくつかの作品を購入し、リヒターの作品は40代で手に入れたという。鮮やかな色彩の縞模様が視覚を惑わす「ストリップ」のシリーズや、抽象画の「アブストラクト・ペインティング」のシリーズ。展覧会場では両シリーズの大型作品が並んでいるが、鈴木さんはその小ぶりな作品を所蔵しているという。
コレクターという立場になって、作品や作家に対する知識がより深まるのと同時に、観察眼も磨かれていった。
「住まいの限られたスペースに作品を招き入れようとする時には、自分なりに一生懸命調べますし、そうして家に招き入れた後は作品を眺めるたびに、細かい部分の良さに気づいたり、より自分の好みがはっきりしたりすると思います」
最近のインタビューでは、建築家の吉阪隆正が1957年に手がけた住宅「ヴィラ・クゥクゥ」を継承したことも明かすなど、自身が所有する作品について公表し始めた。

■門番のような感覚
「私にとってコレクターという立場は、なるべくきれいな形で作品を次の世代の人たちに見てもらうための門番をしているような感覚です。美術館に収まる大作がある一方で、自分がいいと信じた作品を子どもたちなどに見てもらいたいと、コレクションをつないでいくこともすてきだなと思います。アートが身近になって、私自身がとてもいい時間を過ごさせてもらっているから、コレクターになるなんて思ってもみなかった人に対して、『自分も好きな作品を集めて大切にしてみようか』と思ってもらえるきっかけになるなら、発信する意味があるのかなと考えるようになったんです」
だが、コレクションは、それ自体が目的ではなく、鑑賞が好きという気持ちが変わらない原点であるという。鈴木さんは、取材の予定時刻が過ぎた後も、担当キュレーターに熱心に質問し、至高のアートと向き合った大切な時間をいとおしんでいた。「ああ、目が幸せ」と。(朝日新聞社・木村尚貴)
※AERA 2022年7月18-25日合併号