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 小説家・長薗安浩さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『すごい神話 現代人のための神話学53講』(沖田瑞穂 新潮選書、1540円・税込み)を取り上げる。

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 毎年、大学生に創作の歴史について講義をする機会がある。その際、私はまず神話を取りあげ、それらが有名な物語やゲームやアニメの原型となっていることを話す。すると、受講生たちの多くがいきなり強い視線をこちらに向けてくる。沖田瑞穂の『すごい神話』を読んですぐに浮かんだのは、だから、「学生たちにも読ませたい」という思いだった。

 神話学研究所を主宰する沖田は、副題にあるように、神話と現代のフィクションの関連性を端的に解き明かす。たとえば第1講では、あの『鬼滅の刃』とインドネシアの「バナナ型」神話の類似点を指摘し、人間が死ぬようになった理由を説く。

 第2講では、同じく「バナナ型」のナイジェリア神話と絵本の名作『100万回生きたねこ』を比較し、<エロス(愛)とタナトス(死)は表裏一体>で不死の対極にあるという神話の論理を紹介。他の講でも、『マトリックス』や『進撃の巨人』や『ハリー・ポッター』や人気ゲームと各地の神話との親和性を具体的に明示してみせる。

 どれを読んでも発見があって楽しめるのだが、同時に、<神話とは必ずしも過去のものではなく、今も生きているものなのだ>という沖田の熱意に感じ入る。畏怖の念をもって生と死や世界の在り方を想像した太古の人々を尊び、だからこそ彼女は、一人でも多くの人に神話に興味をもってほしいと強く願っている。その思いが本のタイトルからもほとばしる。

 私は時おり、現代人が失った「野生の想像力」にふれたくなって神話を読みふける。そして毎回、深い洞察と壮大な飛躍に圧倒され、「やっぱり、すごいなあ」と、つい感嘆する。

週刊朝日  2022年7月22日号