2024年度上期に刷新される1,000円・5,000円・1万円の各紙幣。約20年ぶりの新紙幣誕生とあって、肖像に選ばれた北里柴三郎・津田梅子・渋沢栄一にも注目が集まっている。特に渋沢はNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公として描かれ、今後の彼がどのように日本を変えていくのかを注目している人も多いだろう。
紙幣の"顔"に選ばれるということは、それだけの偉業を残した何よりの証拠。そんな偉人たちにスポットを当てたのが、今回ご紹介する金運大吉氏と川上徹也氏の共著『人生大逆転のヒントは「お札の中の人」に訊け』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)だ。本書は現行紙幣の野口英世・樋口一葉・福沢諭吉を取り上げ、なんと3人による"講義形式"を採用。新感覚の自己啓発エンターテインメントに仕立てた著者の1人・金運氏は、冒頭で以下のように語った。
「3人に共通しているのは、人生の前半戦ではお金に恵まれなかったこと。そんな状況を打破し、それぞれのやり方で人生を大逆転して、のちに紙幣の顔にまで登りつめたということ。
新しく令和の時代を生きるあなたにも、大きなヒントがあることでしょう」(本書より)
偉人による講義形式とはいうものの、故人がステージに現れて進む講演は実に突飛なもの。第1幕では医学者・細菌学者の野口英世が「みなさん、こんにちは」と挨拶して講義を始めるのだが、突拍子もないからこそ偉人の言葉がより頭に入ってくるのかもしれない。
トップバッターを飾った野口は"最初に言っておきたいこと"として、聞き手(読者)一人ひとりが株式市場で売買される「株」だということを認識してほしいと明言。貧しい家庭に生まれた野口にとって、周囲から"投資"してもらうことは非常に重要だったそうだ。
野口は偉大な功績ばかりが注目されがちだが、本書では繰り返された借金について赤裸々に明かしているのも特徴の1つ。給料が入れば入っただけ使ってしまい、留学資金を一夜の宴会で使い果たしたというのだから驚かされる。それでも野口が積み上げてきた株の価値が周囲の投資(援助)を呼び、彼を支え続けたようだ。貧しい生い立ちと放蕩グセを抱えながら人生大逆転を遂げた秘訣として"プライドを捨てろ"と進言。
「堂々と『助けてください』と正直にまわりに言うことです。すると人も天も味方になって助けてくれます。多少、迷惑をかけるくらいいいじゃないか。
もちろん、自分ひとりでやらなきゃいけないことも多くあります。たとえば勉強。まわりの人たちも、僕が優秀なうえに必死で勉強をしているのを見ているからこそ、投資しようと思ってくれるわけです。
大きな事を成し遂げるには、それだけまわりの人たちを巻き込むことです」(本書より)
実際に多大な功績を残した野口だからこそ、彼の言葉には重みがある。
第2幕で登壇した作家・樋口一葉は、士族の家の生まれでありながら野口と同様にお金で苦労した偉人の1人。生活に困窮していた人物が、のちに紙幣の顔に選ばれるのも皮肉な話といえるだろう。そんな彼女は講義の冒頭で、お金が大嫌いだとキッパリ。父親が副業でおこなっていた不動産業・金貸業を間近で見て、お金がなければ生きていけない"大人の現実世界"を軽蔑していたそうだ。
その後の樋口が送る人生は、講義を聴けば聴くほど壮絶だったことが窺い知れる。長兄と父親を相次いで亡くした彼女は、返す当てのない父親の借金を抱えながら17歳で家督を継ぐことに。婚約者から高額の結納金を請求されて破談となり、商売を始めれば同業者が近所に現れ店じまい。のちに作家として名を馳せるとはいえ、彼女はどれだけの苦労を重ねてきたのだろうか......。
逆境に苦しめられながらも樋口が大成した秘訣は、本名・樋口夏子と作家・樋口一葉の"人格の使い分け"。お金に苦労しているのは「夏子」だと割り切って「一葉」は執筆に集中できたというのだから、やはり樋口には才女たる素質があったのだろう。そんな彼女にとっての"人生の戦い"とは、「一葉」として小説を書き続けることだった。
「いいですか? わたしは人生に勝て、とは言いません。負けるな、と言いたい。
人生に負けなければ、いろいろな悩みにも決して負けることはないんです。要するに、人生をあきらめるなってことです。あきらめなかったから貧乏を創作意欲にして人生逆転できたんです」(本書より)
生きた時代こそ私たちと異なっていても、偉人の放つ言葉は現代社会を生きる上で役立つものばかり。残る福沢諭吉がどのような内容を語っているのか期待を寄せつつ、ぜひ"お札の中の人"が語る言葉に耳(目)を傾けてほしい。