国家公務員に「民間並み」の給与・賞与を保証するのは、公務員はストライキなどを行う「争議権」が認められていないからだと説明されている。だが、この説明には異論もある。というのも、国家公務員は犯罪に手を染めるなどよほどのことがない限り、クビになることはない。企業と違って、業績が悪いからリストラが行われることはないのだ。
また、多くの場合、俸給表に従って毎年給与が増え続けていく仕組みだが、これもよほどのことをしない限り、降格されることがない。公務員も業務遂行の実績によって、ボーナスが増減する評価制度が導入されているが、ほとんどが優秀だという評価になっていて、ボーナスが大きく削られるような人はごくまれだ。つまり「身分保証」が民間とはまったく比べものにならないのである。
民間企業で働いている人には業績でボーナスが大きく増減したり、リストラでクビになったりする「リスク」があるわけで、本来そうしたリスクがほとんどない国家公務員よりもリスク分給与賞与が高くなるべきだ。つまり、公務員給与・賞与を「民間並み」にそろえることが本当に正しいのか、という疑問が湧く。
また、2.8%の減少という夏のボーナスの減少率が「民間並み」だったのか、というとそうでもない。経団連が集計した大企業の夏の賞与の1次集計によると、前年度比7.28%の減少だったという。新型コロナウイルスの蔓延による経済活動の冷え込みで、企業が財布のヒモを締めたことが背景にある。国家公務員の賞与が9年ぶりに減ったからと言って、決して「民間並み」の減り方をしたとは言えないのである。
■中央官庁の中堅官僚が次々に辞めている
だからといって、国家公務員の給与を引き下げよ、と言っているのではない。一方で、中央官庁の中堅官僚が次々に辞めている、という事実もある。圧倒的に「仕事が忙しい」というのが理由で、行政改革担当相の河野太郎氏は公務員の残業の圧縮など「働き方改革」に旗を振っている。早朝から深夜まで働かざるを得ない官僚たちにとっては、給与や賞与は決して高くない、ということになる。
霞が関を離れる決断をした官僚に聞くと、「忙しいのが嫌だ」という声は実は少ない。プライベートの時間もなくなるほどの勤務体制に嫌気が差しているのは事実なのだが、中央官庁の官僚を目指した段階から、「忙しい」ことも、「給与が決してべらぼうに高いわけではない」ことも覚悟の上で入ってきている。
東大生の人気就職先であるマッキンゼーなどの戦略コンサルティング・ファームは役所の若手に比べればはるかに高給だが、仕事が楽なわけではない。猛烈に忙しく、早朝から深夜まで当たり前のように仕事をしている。