ところが、開口一番に立花さんが強調したのは、ちょっと違う点だった。
「速読には、準備が必要です」
ちょうど、週刊誌に連載している「私の読書日記」の締め切り直前だった。机上に、書評に取り上げたヘッジファンドの本があった。
この連載には、毎回さまざまな分野の6~8冊が登場する。しかし、それは6~8冊だけ読んで書かれてはいない。1冊の背後に、数倍の本が隠れている。
つまり、なぜ素早くヘッジファンドの本を書評できたか。それは、金融工学やデリバティブに関する膨大な研究書の渉猟があるからだ。これが、立花さんのいう「速読の準備」である。膨大な知識の蓄積がバックグラウンドになっている。
「蓄積があるから、こんな読み方で、中身がわかるんだよね」
そういって、いよいよ立花さんが、本を手に取った。(2)の「パラグラフ読み」である。
速い!
これは驚いた。鮮明だった。事前の想像とは、まったく違う。そうか。そういうことだったのだ。口に出して、
「パッ、パッ、パッ……」
といってみる。ちょうどそのリズムと同じ速さで、そのままページをめくる感じだ。
■高い集中力を保つ訓練
おそらく多くの読者は、
「パラグラフ単位でもう少し細かく読む」
と立花さんに教われば、じっくり読んではいないにしても、それなりの速度で「読む」ことを想像するだろう。が、目の前で立花さんが読んでいく姿は、違う。1ページに1秒もかからない。次々とページを「見る」スピードだ。
立花さんは、紙面の都合で本には書けなかった速読のポイントを、丁寧に説明してくれた。
「読書とは、インプットではなく、スループットだ」
えっ? 逆でしょう!と思うだろうか。読んで頭に「ためる」のではなく、頭を「通過させる」という。そうやって通過させても残った内容こそ、頭が無意識に選び取った重要な内容なのだ。
通過する量は「流速」×「時間」で決まる。流速とは、集中力の高さのことだ。高い集中力を長く保つのは、訓練のたまものである。
立花さんが長年にわたり取り組んだロッキード裁判では、大量の答弁書や判決文を短時間で読み解き、テレビや雑誌でリポートする必要があった。そんな過酷な状況が、立花さんを鍛えたという。
「人間の脳は、すごいよ。鍛えれば鍛えるほど、回転するんだ」
自分の頭を鍛えて、それを信じろ。そう立花さんはいった。
(編集部・伊藤隆太郎 AERA 2001年7月9日号から再掲載)