
「野良猫にしてもそうですが、猫は人が住んでいるところにいます。鉄道も同じで人が生活しているところを走っています。つまり、猫も鉄道も同じ空間にいて、一つの景色のようになっているからではないでしょうか。犬も人の生活圏内にいますが、猫の持つ柔らかさが、人をほっとさせるのだと思います」
旅情と郷愁を感じる鉄道と、見ているだけで目を細めたくなる猫──。猫のいる鉄道情景は、それだけで、見る人に癒やしを届けるのだろう。
同じく、猫駅長がいることで知られる福島県会津地方を走る会津鉄道の芦ノ牧温泉駅(会津若松市)。同駅を守る会の小林洋介さん(36)も、こう話す。
■テツに溶け込む散歩姿
「猫が気ままにノホホンと散歩したりしている姿が、鉄道の風景となじむのだと思います」
ここの猫駅長はアメリカンカールの「らぶ」(雄、7歳)で2代目だ。初代は16年、推定18歳で猫としては大往生で亡くなった。らぶが駅に来たのは、初代が亡くなる2年前の14年。高齢になった初代の補佐役としてやってきて、翌15年12月に駅長を引き継いだ。
当初はわんぱくだったが、今ではすっかり落ち着いているというらぶ。主な仕事は駅ホームのベンチに座り朝9時台の列車を見送るのと、駅構内のパトロール。駅長の帽子をかぶり小さな姿で見送る姿は、実に癒やされる。先の小林さんは言う。
「静かな駅に猫が気ままにいると、都会にはないのどかな雰囲気に癒やされるのではないでしょうか」
芦ノ牧温泉駅は会津地方の静かな山間にあり、旧国鉄時代の昭和2(1927)年に建てられた。小林さんによれば、猫駅長がいるのはこうした小さな古い駅が多いという。
ただこの1年、コロナ禍でどの鉄道も観光客が激減した。ようやく緊急事態宣言が解除となり芦ノ牧温泉駅にもお客が戻ってきた。らぶも喜んでいるのでは?
聞くと、小林さんはこう言った。
「本人ならぬ本猫の口から聞けないのでわからないですが、うれしいニャンと言っていると思います」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年4月19日号