写真家・石内都さんの作品展「見える見えない、写真のゆくえ」が4月3日から兵庫県、西宮市大谷記念美術館で開催される。石内さんに聞いた。
関西では初の大規模な個展だそうで、開催の経緯をたずねると、西宮市大谷記念美術館の越智裕二郎館長は以前、「広島県立美術館の館長さんだったんです」と言う。
2015年、広島県立美術館で「広島・長崎被爆70周年 戦争と平和」展が開かれた際、「私の作品『ひろしま』を展示したんです。そうしたら、2年ほど前に館長さん直々にここ(群馬県桐生市の自宅)までいらっしゃって、『ぜひ、石内さんをお呼びしたい』と」。
スケールの大きな個展というと、約3年前に横浜美術館で開催された「石内都 肌理と写真」展が思い浮かぶ。
しかし、今回はそれとは「まったく違うコンセプト」。「いままでにやったことのないことをやろう」と、意気込む。
「これがいま、私の目の前にある現実なんだ。これを作品化しなくちゃいけない」
例えば、初期の作品「連夜の街」(1980年)は、「全部ビンテージなんです。当時、銀座ニコンサロンで展示したビンテージプリントをそのまま展示します」。
これまで未公開だった「連夜の街」のカラー作品も発表する。昔ながらの機械式の「スライドプロジェクターで40点投影します。ちゃんと音がします。びしっとやります」。
昨年写した新作「The Drowned」もある。
「まあ、『水没』ですね」
その言葉にピンときた。
2年前の秋、関東地方を縦断した台風19号によって川崎市市民ミュージアムの収蔵庫が水没した。増水した多摩川の水が下水管に逆流したのが原因だった。石内さんの収蔵作品も被災した。
石内さんがそれを目にしたのは昨年のこと。
「もう、においがひどくて。けっこうショックを受けちゃって」
木村伊兵衛写真賞の受賞作「アパート」は表面がカバーされていたため、かろうじて絵柄が残ったが、祖母の手と足を写した「1899」は、「汚水にそのまま浸かっちゃった」。「カビだらけで、めちゃくちゃ」だった。
カメラを持っていったものの、「ショックのほうが大きくて、あまりよく撮れなかった」。
再び、現地を訪れたとき、「これがいま、私の目の前にある現実なんだ、と。これを作品化しなくちゃいけない、と思った」。それが「The Drowned」となった。
この作品は当初、今回の展示予定には入っていなかったが、「いろいろな経過をふまえて、美術館に『入れたい』って言ったら、『いいですよ』と、OKを出してくれたの」。
「でもね、発表するか、どうしよう、どうしようと、ずっと悩んだのよ。川崎市市民ミュージアムの担当者や学芸員にも相談して、『どう思う?』って聞いたら、『ぜひ、発表してほしい』と言うから、決めた」