夫婦とは何だろう?いなくなってみて初めてありがたみに気づくとはよく言われることだ。歌手で、『ぼくは本屋のおやじさん』で知られる著者が、ひと目惚れして学生結婚した妻のことを綴ったエッセイ集だ。

 妻に先立たれた男の切ない話だが、呆れと羨望を交えて読めてしまうのは、妻も娘も公認の「恋人」づくりに浮かれていた日々が包み隠さず披瀝されるからだろう。彼女へのプレゼント選びに楽しげに協力する妻。なぜ嫉妬しないのか。妻は「二号さんの子どもと親友だったからかな」と答えている。

 しかし妻の病を知ったとたん、のん気な夫は歌手活動を休止し、二人の時間を選択する。一見「常識外の夫婦」だが、読み進むうちに理解できてくるものがある。40年前、夫婦で営んだ書店で「レジ係」だった妻の楽しい文章が収録されているのがいい。(朝山 実)

週刊朝日  2021年2月5日号