半ば趣味のように“自撮り人妻熟女”を続けていたマキエさんだが、2019年2月に初の写真集『マキエマキ』(集英社インターナショナル)を発売したことで、写真家としての自覚がより明確になったという。この写真集の仕掛け人は元小学館の名物編集者で、矢沢永吉さんの『成りあがり』などをヒットさせた島本脩二さんだった。
「島本さんが関わっているギャラリーで個展をする話があって、作品を見せに行ったのがお会いしたきっかけでした。その時に島本さんが、『展示だけじゃなくて図録にしたら面白いんじゃない?』と言ってくださって、トントン拍子に話が進んでいきました。その時、島本さんがすごい編集者ということを存じ上げておらず、後で調べてびっくりしました(笑)」
写真集制作の話が出た頃、世間では、セクシャル・ハラスメントや性的暴力の被害者である女性が声を上げる「#MeToo」のムーブメントが起こっていた。そんな中、島本さんはこの写真集に「私のエロは、私が決める!」というコピーを掲げた。
「女性のセクシュアリティを踏みにじるようなことが社会に明るみになったときに島本さんが私の作品に共感してくださり、このコピーを持ってきてくださったのはある意味象徴的なことでした。私が自撮り人妻熟女を面白がってやっている根っこには、ルッキズムや若さ至上主義への反発というのがすごくありましたから」
改めて昭和の“エロ”を見返してみると、男の妄想によって生み出されたものであり、そこに被写体である女性の自我は微塵も感じられない。マキエさんは長年仕事で培った写真の技術を駆使して、昭和の“エロ”の世界観を自由に表現し、自ら面白がることで、女性の主体性を実力で取り戻しているように見える。写真の中のマキエさんを露出狂で欲求不満の人妻熟女と結びつけるのは早計で、実は女というだけで性的対象として見られ、仕事でも軽んじられてきたことへの復讐に似た、アーティストとしての表現活動にほかならない。
「はじめは遊び半分だったので、自分を写真家と名乗ることも、これをアートだというのはおこがましいと思っていました。でも、島本さんにこの写真集を作っていただいたことで、今までみたいにユルくやっていたら島本さんにも、支えてくださった人にも失礼だということに気づきました。だから、私は写真家として堂々とアートをやってやることにしたんです」
2020年には2冊目の写真集『マキエマキ 2nd 似非』(産学社)を出版し、2月4日(木)~22日(月)には「カフェ 百日紅」(東京・板橋)で個展も開催する(入場無料、喫茶店につき要オーダー)。マキエさんの自由で大胆なエロの“復讐劇”からますます目が離せない。
(文:吉川明子)
マキエマキ
1966年大阪生まれ。1993年よりフリーランスの商業カメラマンとして雑誌、広告などでの活動を始める。2015年に「愛とエロス」をテーマにしたグループ展に出展したことで、自撮り写真に目覚める。その後、「自撮り人妻熟女写真家」として作品を発表し続けている。『第5回 東京女子エロ画祭グランプリ』受賞。写真集『マキエマキ』『マキエマキ 2nd 似非』を出版。