人間は人間だけでは生きられない。植物や動物を、時には食料に、時には道具に、時には友としながら生きてきた。

 アリス・ロバーツの『飼いならす』には、人間がどのように動植物を飼いならしてきたのかが書かれている。登場するのはイヌやウマなど動物と、コムギやトウモロコシなどの植物、合わせて10種類。

 オオカミが人間と仲良くなり、やがてイヌとして共に暮らすようになりました……なんてメルヘンチックな内容を想像していたのだが、ちょっと違った。考古学や遺伝子の解析などによって人間と動植物との関係を突き止めていく、ガチガチの科学ノンフィクションだ。

 なるほど!と膝を叩いたのは、飼いならすことで変わるのは動植物の側だけじゃないという事実。人間もまた変わるのだ。たとえばウシ。ウシの乳を飲み、ウシの肉を食べるうちに、人間も変わっていく。牛乳を初めて飲んだ人間は、きっとお腹をこわしただろう。ウマに乗ることによって、行動範囲が広がり、文化も発展した。

 コムギやイネなど野生の植物を栽培できるように手なずけ、おいしく栄養たっぷりに変えた先人たちの努力はたいしたものだ。だが、品種改良の延長線上に遺伝子組み換え技術があるとするなら「うーん」と腕組みせずにはいられない。たしかに飢餓を救う手段にはなるかもしれないが、取り返しのつかないことになりやしないか。

 最終章は、なんとヒトだ。人間は自分をも飼いならしてきた。なるべく争わないように、協力し合うように。そのおかげで文明も発展した。そう考えると、分断を進め対立を煽るのは非人間的なことだとわかる。

週刊朝日  2020年12月11日号