香港中文大学では、1年前に起きた同大での学生と警察との激しい衝突を振り返る展示が行われている(写真/gettyimages)
香港中文大学では、1年前に起きた同大での学生と警察との激しい衝突を振り返る展示が行われている(写真/gettyimages)

 こうした弾圧が、ついに立法会の議員にまで及んだ。

 11月11日、中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会は、中国による香港への主権行使を認めない議員の資格を剥奪する権限を、香港行政府に与えることを決定した。要するに、中国共産党に盾突く議員は存在させないということだが、林鄭月娥(キャリー・ラム)率いる香港行政府は、全人代常務委員会のこの決定に従い、同日、公民党などに所属する4人の民主派議員の資格を失効させた。

 この4人が標的となったのは「香港独立」を口にしたり、「中国制裁の強化」を欧米に求めたりしたからともいわれているが、彼らに連帯する形で他の15人の民主派議員も辞職した。そのため、立法会(定数70)は、ほぼ親中派議員のみで占められる「翼賛議会」と化した。

 もう誰が見ても「一国二制度」など存在せず、香港の市民自治は、中国共産党とその傀儡行政府によって、ほぼ完全に息の根を止められた。

■香港市民にできること

 中国共産党と香港行政府は、主権者であるはずの香港市民の政治的・市民的自由を明らかに奪いながら、それを「香港社会の安定のため」だと正当化。「国安法は人権問題などではなく、合法的な権力行使にほかならない」と国連の場で主張し、これまで国際社会が築いてきた人権秩序の「中国化」を推し進めている。

 こうした国安法下にあって、政府に抗したい香港市民にできることはあるのか。黄之鋒は、「私たちができる七つのこと」と題した呼びかけをSNSを使って行っている。

AERA11月30日号から
AERA11月30日号から

 主な内容は、「逮捕者が『無罪』となるよう、裁判を傍聴するなどさまざまな支援をする」「中国共産党主導の『社会を赤化する』動きを監視し、これに染まらぬようにする」「ツイッターでの日々の発信を欠かさず、世界の人々に独裁化が進む香港の現状を伝える」などだ。

 わかりやすく誰もが実行できるように思えるが、そう簡単なことではなく、今の状況で黄之鋒のこの呼びかけに応える香港市民は限られているようだ。

 現地の声を紹介しよう。

「集会も街頭デモもできないし、立法会選挙は延期で民主派の議員はみんな辞めちゃった。おまけにコロナ禍で、職を失う恐れもある。もう精神的に疲れました。自分のことで精いっぱいです」(ホテルの従業員・女性)

「正直な気持ちを言うと、私たちは負けました。結局、いくら頑張っても、中国共産党が支配している限りどうにもならないんです。習近平が死んだってだめ、彼と同じような人物が彼の代わりをやるに決まってるんだから」(会社員・女性)

「我慢のときだと思う。私を含め、イギリスや日本への移住を志向する人が増えたが、自由な香港を取り戻したいという気持ちに変わりはない。かなりの時間がかかるだろうけど、諦めてはいない」(自営業・男性)

 そして、東京で働くある香港人女性は、こう語った。

「これまで、ツイッターを使ってさまざまな発信をしてきましたが、既に中国当局に私のことを特定されているのではないかと恐れています。なので、もう実家がある香港に戻れなくなりました。日本にいる私でさえそうなのだから、香港にいる人はなかなか発信できないと思います」

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80年代ポーランドと重なる「独裁」