まさに「終活落語」といえるのは『片棒』。大店の主人が自分亡き後、三人息子の誰に後を継がせるか決めるために、「自分の葬式をどうするか」をそれぞれに訊ねる。長男、次男は盛大な葬式派。三男は倹約派。鳥葬を勧めて親父を驚かせたり。「棺桶は使わず菜漬けの樽に天秤棒で出棺ですが、私一人では担げませんので一人は雇うことになります」と言う三男に父も負けていない。「無駄な金は使うな! 片棒はおとっつぁんが担ぐ!」というのがこの噺のサゲ。ブラックユーモアね。
誤解を恐れず言うと、コロナ禍以降、「いい葬式」が無い。次男の言うところの「派手で、盛大で、未曾有な、古今東西の歴史に残るような葬式」とまでいかなくても、みんなで集まって故人をしのぶくらいしたいじゃないか。落語家の葬式って天寿を全うした人なら、笑いながらほろ酔い加減で送り出す。「あの師匠のお弔いはよかった」なんて話が出来ないのかと思うとさびしい。だからいま『片棒』を聴くと、「長男次男、もっと頑張れよ!」と思ってしまう。このご時世、落語の世界のお弔いくらい賑やかなのがいいなぁ。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2022年7月15日号