井浦新さん[撮影/写真映像部・加藤夏子 ヘアメイク/NEMOTO(HITOME) スタイリスト/上野健太郎(KEN OFFICE) 衣装協力/Post O'Alls(Post O'Alls)]
井浦新さん[撮影/写真映像部・加藤夏子 ヘアメイク/NEMOTO(HITOME) スタイリスト/上野健太郎(KEN OFFICE) 衣装協力/Post O'Alls(Post O'Alls)]

 新さんが、この作品に惹かれたのは、「人間、子ども心を忘れてしまったらつまらない」という思いが根底にあったせいかもしれない。自分を表現していく職業についたこともあり、常識や理性、固定観念にとらわれることなく、常に頭を柔らかい状態にしておきたいと考えているのだ。

「大人になって、世の中の仕組みを理解していけばいくほど、脳が持つクリエーティブな部分が働かなくなるという研究があるんです。既存の理性や概念を超えて表現されたものは、大衆には理解されにくいかもしれないけれど、特定の誰かにとっては、人生を変えるほどの影響を与えたりもするわけで。僕が影響を受けてきたアーティストも、だいたいが子どものままの部分を持っている人たち。全員に共通しているのは、純粋さや無垢な感性です。僕自身も、常識や固定観念にとらわれないで、『あみ子』のような野生っぽい部分は、大事にしたいと思っています」

 純粋無垢な部分を大事にしたいというのは、傍若無人に振る舞いたいという意味ではない。大人らしい振る舞いの中で優れた作品を発表している人も、周りには大勢いる。

「僕の尊敬する人生の大先輩方……例えば是枝裕和監督や若松孝二監督は、子ども時代に体験した感動や喜び、抱えた疑問を、ずっと突き詰めようとしているんだなってことは感じます。だから僕自身も、自分が心から好きだと、楽しいと思えることは、本気で向き合うようにしています」

 好きなことを挙げてもらうと、即座に「自然!」という答えが。

「旅、登山、トレッキング、釣りなどを通して、季節の移り変わりをしっかり感じていく。それはすごく大事にしています」

 ルーティーンを嫌う新さんが、映画の撮影に入っているときに一つだけ実践しているルーティーンがある。それは、朝起きてすぐ、前日に覚えたセリフを暗唱することだ。

「寝ると、一回脳がリセットされるので、目が覚めたときに、『あみ子状態』になるんです(笑)。体がちゃんと起きる前、脳が無垢になっている状態のときに、セリフを暗唱すると、スポンジが水分を吸収するように、脳に言葉が定着していく感じがあって。現場に入っているときは、朝起きてすぐのセリフの暗唱が、もう習慣になっています」

井浦新(いうら・あらた)/ 1974年生まれ。東京都出身。99年、是枝裕和監督「ワンダフルライフ」で俳優デビュー。「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」(2012年/若松孝二監督)で第22回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞、「かぞくのくに」(12年/ヤン・ヨンヒ監督)で第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。近年の出演作に、「朝が来る」(河瀨直美監督)、「かそけきサンカヨウ」(今泉力哉監督)。[撮影/写真映像部・加藤夏子 ヘアメイク/NEMOTO(HITOME) スタイリスト/上野健太郎(KEN OFFICE) 衣装協力/Post O'Alls(Post O'Alls)]
井浦新(いうら・あらた)/ 1974年生まれ。東京都出身。99年、是枝裕和監督「ワンダフルライフ」で俳優デビュー。「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」(2012年/若松孝二監督)で第22回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞、「かぞくのくに」(12年/ヤン・ヨンヒ監督)で第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。近年の出演作に、「朝が来る」(河瀨直美監督)、「かそけきサンカヨウ」(今泉力哉監督)。[撮影/写真映像部・加藤夏子 ヘアメイク/NEMOTO(HITOME) スタイリスト/上野健太郎(KEN OFFICE) 衣装協力/Post O'Alls(Post O'Alls)]

(菊地陽子、構成/長沢明)

週刊朝日  2022年7月15日号より抜粋