
「とてもタメになるセミナーがあるから一緒に行かない?」「絶対に儲かる事業の話がある」など、「悪徳マルチ」の勧誘といえば、直接会って、セミナーへ誘導したり、第三者の勧誘役が登場したりすることがお決まりだった。ところがこのコロナ禍で、マルチ勧誘の手法にも変化が訪れているという。(清談社 大宮タロウ)
●リモート飲み会がマルチ勧誘の入り口に
新型コロナウイルスの流行により、人々の生活は大きく変化した。ビジネスマンのなかには、“3密”を避けるために在宅勤務となった人も多いことだろう。
会議やミーティングなどの業務はもちろん、飲み会や帰省といったプライベートのイベントもすべてが「リモート」で行われる今、なんと、「悪徳マルチ」の勧誘にも「リモート」がうまく取り入れられているという。
実際に、このコロナ禍で、リモートでの勧誘を体験した木島夏美さん(仮名・27歳)は、こう語る。
「私を勧誘してきたのは、大学時代に所属していたダンスサークルのYという先輩でした。同じサークルといっても、私はほぼ幽霊部員だったので、Y先輩との交流はほぼなかったんですけど…」
先輩から木島さんに連絡が来たのは、ちょうどゴールデンウィークも終わりかけのタイミングだった。
「アパレルブランドで販売員をしているのですが、当時、仕事はコロナの影響で休業していたし、外出自粛でどこにも行けない、誰にも会えないという状況で、とにかく気持ちが落ち込んでいました。そんなとき、先輩から急にSNSでメッセージがきて、『リモート飲み会をしようよ!』と誘われたんです」
さほど親しくない相手ではあったが、「まあリモート飲み会なら…」と、快諾してしまった木島さん。言われるがまま、数日後にその先輩とリモート飲み会を行ったという。そのときは、まだ悪徳マルチに関する話はされなかったそうだ。
「直接的な勧誘はされませんでしたが、今の給料や家賃、今後のライフプランなど、とにかく根掘り葉掘り聞かれましたね。正直に答えてしまった自分もバカだとは思いますが、コロナ禍で弱っていたときに、親身になって相談に乗ってもらえて、心を許してしまったんです」
こうして、木島さんのあらゆる情報を得た先輩は、次なる一手に出る。