芸術の秋──。美術ファンからは「今年は無理だよね」という声が聞こえてくる。しかしむしろコロナ禍ならではの、ちょっとうれしい鑑賞方法も。この秋、特におススメしたいのが、建物や館名を変えて新しく生まれ変わった美術館だ。

【新しく生まれ変わった美術館を写真で紹介!】

ピエール=オーギュスト・ルノワール《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》1876年/石橋財団アーティゾン美術館蔵。万人を魅了する少女の愛らしさ。〝肖像画家〟ルノワールの面目躍如たる作品。→石橋財団コレクション選 特集コーナー展示「印象派の女性画家たち」(~10月25日)
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 今年は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響で、開催が予定されていた大型美術展の多くが延期や中止になった。緊急事態宣言発令中は休館した美術館も少なくない。

 そうした中、美術館にはウィズ・コロナ下でのあり方を模索する動きが出てきている。春先以降はオンライン上の展覧会が盛況だった。営業再開後は感染対策としてウェブサイトなどで事前に来館日時を予約してもらい、時間内に入場する人数を制限して密な空間を作らない美術館が増えている。

 この日時指定予約制により、混雑を避け余裕を持って作品を鑑賞することができるようになった。展覧会も、複数の美術館が連携して開催したり、収蔵作品を活用して従来とは違う角度からのテーマによる展示を行ったりと、関係者が知恵を絞った見応えのあるものがラインアップされている。美術ファンにとっては歓迎すべき状況ともいえる。

 特に今年注目されるのが、東西の老舗美術館が建物や館名を一新して生まれ変わり、新しいスタイルの美術鑑賞を提供していることだ。こうした美術館の誕生は、新時代の訪れを強く印象づける。

 鑑賞に出かける場合は事前予約のうえ、当日はマスクを着用し、検温や手指の消毒など美術館の要請に従いたい。

■アーティゾン美術館 古代から現代美術まで幅広い展示に出合える

 JR東京駅八重洲中央口から歩いて5分ほど、中央通りと八重洲通りの交差点に面した超高層複合ビル・ミュージアムタワー京橋。そこに今年1月オープンしたのが「アーティゾン美術館」だ。館名は「Art(美術)」と「Horizon(地平)」を組み合わせた造語で、「時代を切り拓く美術の地平を多くの人に感じ取ってほしい」との思いが込められている。

【アーティゾン美術館】館内はバリアフリーとなっており、高齢者も落ち着いて鑑賞できる

 アーティゾン美術館の前身は、1952年開館のブリヂストン美術館。モネや青木繁をはじめ国内屈指の近代絵画のコレクションで知られ、周辺に勤務するサラリーマンやOL、観光客など多くの美術ファンから愛されたが、2015年に惜しまれつつ休館していた。

 休館中も20世紀美術や現代美術、日本の近世美術などを意欲的に収集し続け、アーティゾン美術館のオープン時点でコレクション総数は約2800点に上った。

「新しい美術館のコンセプト『創造の体感』を軸に、古代美術から現代美術へと視野を広げ、最新の設備で美術の多彩な楽しみを提供します」(広報課の松浦彩さん)

 ビルの1階にカフェ、2階にミュージアムショップがあり、メインロビーは3階で、そこから4~6階の展示スペースへと向かう。天井が高く吹き抜けを多用した開放的でモダンな設計は、ニューヨークのアートスポットを彷彿とさせる。

 照明、空調、デジタルなどは最新技術が導入され、最初は戸惑うかもしれないが、慣れてしまえば快適そのものだ。展示スペースは5階と6階は多様な展示に対応する空間、4階がコレクションが中心で階ごとに特徴が異なり、一度の来館で幅広いアートと出合う楽しみがある。

 10月25日までは、4階の石橋財団コレクション選 特集コーナー展示「印象派の女性画家たち」でブリヂストン美術館時代の“看板娘”、ルノワール《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》に再会できる。11月14日に始まる「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」にも、同館自慢の印象派や琳派のコレクションが並ぶ。会期後半の12月22日から来年1月24日までは、京都・建仁寺の国宝、俵屋宗達《風神雷神図屏風》の公開も予定されている。

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