新約聖書の物語を説明し、それを題材とした美術作品を読み解いた一冊だが、確実に好き嫌いが分かれるはずだ。小説『仁義なき戦い』をモチーフにし、登場人物が全員、広島弁でチンピラのようにまくし立てる。

「ユダ! おどれがチンコロしおったんか!」とペトロが広島弁でユダを詰めるはずはないのだが、読み進める内に違和感を抱かなくなるから不思議だ。考えてみれば、キリスト教の陰の歴史は俗にまみれた権力争いの歴史でもある。内部の宗派争いはまさに「抗争」であり、キリスト教をやくざに見立てるのも決して飛躍していない。

 キリスト教は布教のために美術を利用した側面もあり、西洋美術の理解には聖書の理解が欠かせない。「聖書について知りたいが、堅苦しい解説はちょっと苦手」という人に勧めたい。(栗下直也)

週刊朝日  2020年6月5日号