今の日本にも、スタグフレーションがやってくるのか。それが話題になる今日この頃だ。そうかもしれない。だが、そうだとしても、70年代のアメリカ型スタグフレーションにはなりそうもない。なぜなら、今の日本においては賃金が上がっていない。高まってきた物価上昇のペースに、賃金が全く追いついていない。追いかけっこどころか、このままでは、賃金が物価にどんどん置いてきぼりを食らうことになりそうだ。

 これは悲惨なことだ。弱者の生活が行き詰まる。70年代のアメリカでは、賃金と物価の上昇が足並みをそろえていたから、失業を免れている限り、生活苦が窮まることはなかった。今の日本では、そうはいかない。同じスタグフレーションでも、そのメカニズムには違いがある。そこを見誤ると、犠牲者が出る。

 今の日本の政策責任者たちに、それが分かっているだろうか。聞くだけ野暮(やぼ)だ。分かっていないに決まっている。

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

AERA 2022年7月11日号

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