「作家は 『愛』とか『友情』とか安易な言葉を使わずに、スナイパーのように遠くからその芯を射抜くべきもので、『現世肯定』というのは、この社会を生きる読者が死ぬ前に、その一生を肯定できる物語を書くのが小説家だということ。平山さんがよく言っていることですね」

 そう説明すると、「同じ志を持つ作家と思ってもらえているなら嬉しい」と顔をほころばせた。

 現在は、アジア各国から日本へ渡ってくる技能実習生にまつわるミステリーと、戦時下の日系アメリカ人の歴史小説を並行して連載中。定住するのをやめた家族の物語も書き下ろしで刊行予定だ。震災後に仮設住宅に入ったが、やがて定住という概念そのものを手放すというストーリー。どれも現代の切実な社会問題から着想している。

 何かが真藤に憑依したとき、また次の物語はうなるように紡ぎ出されていく。

(文中敬称略)

■しんどう・じゅんじょう
1977年 東京都品川区生まれ。大学時代から映像活動を始める。
2000年 文教大学文学部卒業。映像制作会社でフリーのアシスタントディレクターとして働きながら、自主製作映画団体で活動。05年ごろからプロの小説家を目指して本格的に創作活動に入る。
  08年 『地図男』で第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞、『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞受賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞受賞、『RANK』で第3回ポプラ社小説大賞特別賞受賞。四つの新人賞を受賞してデビューする。
  10年 『バイブルDX』出版。
  11年 『畦と銃』を出版。『宝島』の着想。
  12年 『墓頭』を出版。
  14年 『七日じゃ映画は撮れません』を出版。
  15年 『しるしなきもの』『黄昏旅団』を出版。
  16年 『夜の淵をひと廻り』を出版。
  18年 『宝島』を出版、第9回山田風太郎賞受賞。
  19年 『宝島』で第160回直木三十五賞、沖縄書店大賞(小説部門)受賞。

■藤井誠二
1965年、愛知県生まれ。ノンフィクション作家。『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』で沖縄書店大賞沖縄部門受賞。最新刊に『路上の熱量』。

AERA 2019年11月18日号

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