大きめの事務用紙にびっしりと筆圧の強い文字を一心不乱に刻み、推敲しながらパソコンに打ち込む。当時は「はやく俺を見つけないと文壇の損失になる」と思っていたほど、根拠不明の自信が漲っていた。現在は、自宅の近所にある共同玄関・共同シャワーの木造の古びたアパートを仕事場として借りている。

 この頃には、村上龍、村上春樹、東野圭吾、宮部みゆきなどの現代作家の売れ筋も読んでいたし、ドストエフスキーからコーマック・マッカーシーまで新旧の海外文学も愛読書となっていた。漫画家の新井英樹の『ザ・ワールド・イズ・マイン』にも衝撃を受けた。古今東西新旧のあらゆる表現を取り混ぜて吸収し、すべてが引き出しになった。

 しかし、その3年間のうちに書いたものは新人賞を取れず、30歳を迎えた。そこで一念発起する。これからの1年間、毎月書いて応募していき、賞を取れなかったらプロの小説家を目指すのをやめると決意した。ハードルをさらに上げたのだ。インスタントラーメンをすすり、ガスや電気を止められたこともあった。

「小説家としてプロデビューしたい一心だったんです。ほかの人がやらないことをやらないとブレークスルーできないと思った。あのころは、ふつふつと煮えたぎるものがありました」

■デビュー後スランプに、ビルの屋上に足が向いた

 背水の陣で臨んだ結果、最初に応募した4本が4本とも賞を獲得した。ダ・ヴィンチ文学賞大賞を取った『地図男』の選考に関わり、現在「ダ・ヴィンチ」編集長の関口靖彦(45)は、度肝を抜かれたような気持ちを覚えている。

「満場一致でした。こんな物語も、あんな物語も語りたい作家なのだと思いました。しかも疾走感が衰えない」

 他に『RANK』がポプラ社小説大賞特別賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で電撃小説大賞銀賞、『庵堂三兄弟の聖職』で日本ホラー小説大賞受賞と、華々しいデビューを飾った。

 文教大学日本語日本文学科教授で、1年時から真藤を指導した寺澤浩樹(59)は、大学時代から真藤の書く映像作品の脚本や小説を高く評価していた。

「原稿用紙のマス目一杯に強い筆圧で刻み込まれた、やや右上がりの四角張った彼の手書きの字からは“狂気”や“憑依”がありありと感じられて、とても興味深いものがあった。過剰な装飾が施された極めて個性的な文体や、(小説の中の)語り手の前のめりな姿勢などのせいもあります。あと、彼が学生時代に言っていましたが、漢字や言葉そのものへのフェティッシュな趣向によるものです」

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