ニューヨーク市における感染者の増加はまさに「あっと言う間」だった。ものすごいスピードで数字は膨れ上がり、同じぐらいのスピードで毎週のように様々な制限が敷かれて行った。3月12日には日本でもミュージカルなどで有名なブロードウェーのすべての劇場が州知事の指示で閉鎖になり、500人以上の集会を禁止する命令が出された。
次の週には50名以上の集会が禁止され、映画館、スポーツジム、カジノなども完全に閉鎖。レストランやバーは持ち帰りやデリバリーは許されるが、店内での飲食は禁止された。それを守らない場合には罰金が課せられる。また、各企業や団体などのオフィスに出勤できる人数は全体の50%までと定められた。
3月22日になると、その制限はさらに厳しくなる。「必要不可欠な職業」(警察官、郵便配達員、スーパーの店員、記者など)以外の仕事に従事する人々の100%、すなわち全ての人員は強制的に在宅勤務が義務付けられ、実質的な外出規制を行った。
その影響で市内の地下鉄やバスの利用者数もほどなく90%ほど減少、運行本数もこれまでの75%に減らされた。
著者は外出規制が実施された数日後にニューヨーク市の中心地タイムズ・スクエアに取材で出向く必要があったが、普段は観光客で溢れかえっている通りは閑散として、レストランやショップもほとんどが閉店していた。通りかかったニューヨーク市在住のカップルに話を聞いてみると、感染が怖いので地下鉄を使わず自宅から2時間近くかけて歩いて来たという。
カップルの片方、オクタイさん(23)は「異様な雰囲気だね、静かすぎるよ」と驚きを隠せなかった。データ・アナリストとして市内の会社に勤務する彼も現在は自宅勤務で、街の中心地に来るのは外出制限の命令が出て以来初めてだと語った。
「でもこれがきっと最後だと思うよ」。そう言うと、人気のないタイムズ・スクエアの写真を記念に撮っていた。