『論語』など読んだことがない、という人が大半だろう。しかし日本人は、そこから派生した儒教思想を無意識のうちに刷り込まれ、それが「日本人らしさ」を形成している。本書は、その構造の核心部分にメスを入れている。
身分制の維持、明治維新後の天皇制維持などに利用されてきた儒教思想は、戦後も生き残り、教育現場で、また企業社会で、日本人のメンタリティを隠然と支配してきた。がまんが美徳とされ、突出した点があることより欠点がないことが尊ばれる風潮、和を乱すまいとする忖度が幅を利かせ、従前の仕組みを変えることを避ける傾向──すべて、儒教道徳の悪い面が顕在化した例だ。
儒教のいい面と合理的思考との間でバランスを取ることが大事と説く本書を手引きに、今こそ『論語』を読むべきかも。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2020年4月10日号