中村喜四郎衆議院議員。かつて自民党のホープと目された男だ。2003年にゼネコン汚職事件にからみ実刑となり失職したが、無所属になっても選挙戦は無敗を続け、「選挙の神様」とも呼ばれる。
「ムショ帰り」のレッテルを一度は貼られた男を、人々はなぜ支持し続けるのか。著者が1年以上にわたり、密着して浮かび上がったのは「変わらない」中村の姿だ。ひたすら歩き、アパートの一部屋一部屋に戸別訪問を続ける。選挙期間中はオートバイにまたがり、有権者のもとを走り回る。東京と地方の経済格差が広がる中でも、地元と向き合うスタイルを踏襲する中村を大衆は支持する。
中村はここ数年、野党共闘を呼びかける。沈黙を貫いてきた男を突き動かすものは何か。日本の先行きが濃い霧に覆われている今、必読の評伝だ。(栗下直也)
※週刊朝日 2020年1月31日号