東京のJR山手線・京浜東北線に新しい駅ができる。その名前が「高輪ゲートウェイ」と聞いて脱力した。ひどい、あまりにもひどすぎる。

 今尾恵介『地名崩壊』によると、駅名決定に際してJR東日本が行った公募では「高輪駅」がダントツの1位で、「高輪ゲートウェイ」は130位だったという。なんのための公募なのか。

 もっとも、本書を読むと、ひどい駅名は高輪ゲートウェイに始まったことではない。民間企業の施設名である駅名はまだしも、日本中で土地の名前が“キラキラネーム”化しているのだ。

 本書の第1章「地名の成り立ちと由来」では、旧来の地名が地形その他さまざまな由来を持っていることが、おびただしい数の実例とともに示されている。地名にはその土地の自然や歴史、人びとの記憶が宿っている。地名は時を超えた共有財産なのだ。

 ところが近代の日本人は、文化遺産ともいえる地名を捨て、新しい地名に飛びついた。かつての地名は、古臭く泥臭いからと忌避された。あるいは、市町村合併では、一方が吸収・併合される印象にならないよう、新たな地名が考案された。ようするに過去を捨てたかったのだ。そして選ばれたのが、ひらがなを多用したキラキラ地名である。

 洪水など災害があるたびに、「沢や沼など水に関係のある住所は要注意」といわれる。だがそれもあてにならない。過去と断絶しているからだ。地名に「丘」がついているからといって安心できない。

 地名は歴史であり文化である。それを簡単に捨ててしまうのは、郷土に対する愛情も親しみもないからだろう。

週刊朝日  2020年1月17日号

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