歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは、『サピエンス全史』で人類の過去を、『ホモ・デウス』で人類の未来を描いた。それらの著作は世界中で2千万部以上も売れ、多くの読者に衝撃を与えてきた。そして今回、私たち人類が抱えている現下の課題と向きあうため、ハラリは『21 Lessons』を著した。
扱うテーマは、タイトルどおり21点。第1部の<テクノロジー面の難題>では、AIとバイオテクノロジーが人間に与えつつある<生命を設計し直し、作り変える力>にふれ、そのために発生する「幻滅」から「雇用」「自由」「平等」へと課題が展開する。
たとえば、すでにネット販売では、コンピュータ側から次に買ってはどうかと未知の商品を勧められる。私がさほど考えずに提供した個人データや購入実績をアルゴリズムが分析し、自分の欲望を先取りしてくるのだ。こうしたアルゴリズムの精度が向上して拡大すれば、私は生活のほとんどを彼らに委ねるようになるかもしれない。ほら、自動運転車の実用化はもうすぐだ。
目的達成の最適化を求め続け、ビジネス界もそこに照準を合わせて邁進する現実。その結果に現れる社会とはどういうものか? 予測は不透明だが、<自分という個人の存在や生命の将来に関して、多少の支配権を維持したければ、アルゴリズムよりも先回りし、アマゾンや政府よりも先回りし、彼らよりも前に自分自身を知っておかなければならない>とハラリは説く。
こうして、ハラリの思考は自己観察へと向かっていく。それは、自分が自分として今世紀を生きるための、最も難しいレッスンかもしれない。
※週刊朝日 2019年12月27日号