2016年夏、白昼堂々と博多駅前で約6億円相当の金塊が奪われた。「平成の3億円事件」と呼ばれたこの事件の主犯者が真相を告白する。

 小さい頃から札付きのワルで10代後半からは犯罪しては捕まっての繰り返し。勾留中に脱走するなど怖い物知らず。ほとんど塀の外にいないのではと思うほど、犯罪と逮捕の描写が続く。金塊事件は起こるべくして起こったようにも映るが、当時の彼は起業で成功し、まっとうに生きようとしていた。金にも困っていない中、なぜ大胆な犯罪に手を染めたのか。一人語りなので割り引く必要もあるが、語られる事件の舞台裏には客観的な材料もあり、読み手はうならされる。

 芸人による「闇営業」が世間を賑わしたが著者がその渦中のひとりでもあったことが、本書に不思議な厚みをもたせている。(栗下直也)

週刊朝日  2019年12月6日号