衝撃的なタイトルだ。周燕飛『貧困専業主婦』。夫は一流企業の社員でそこそこ裕福。そんな専業主婦のイメージを、著者はいきなりくつがえす。専業主婦世帯の貧困率は12%で、パート労働などをする共働き世帯(貧困率は9%)より貧困率が高い。<「専業主婦=高収入男性の妻」とのイメージ>は虚構にすぎない、と。

 日本はもともと、男は仕事・女は家庭という性別役割分業意識が高い国だが、男性の収入が激減した現在、夫の収入だけで一家の家計をまかなえる男性世帯主(標準生計費月額31万円)は4割程度。20代では5人にひとり、30代では3人にひとりしかいない。にもかかわらず専業主婦モデルが健在な日本では、家計補助のためにパートに出る準専業主婦も含めると専業主婦率が63%。6歳未満の子どものいる世帯に限れば、23%が準専業主婦、51%が専業主婦だ。したがって<「専業主婦」モデルはすでに「夫婦共働き」モデルにとって代わられたという認識は、大きな誤解だと言えます>。

 しかも専業主婦率が高いのは世帯収入がもっとも低い階層だ。彼女らの節約法には涙ぐましいものがある。<100グラム58円の豚肉をまとめ買いするため、自転車で30分走る>とか<月100円の幼稚園PTA会費の支払いも渋る>とか。それでも貯蓄はおろか教育費にも事欠き、家族の食や健康にも支障が出る。彼女らが専業主婦を選んだ理由のトップは「子育てに専念したいから」。なおかつ専業主婦の多くは現在の生活を「幸せだ」と感じている。本人が満足ならばいいじゃん、といえるのか。一度専業主婦になったら負の循環からなかなか抜け出せない制度の欠陥を本書は説く。

<日本企業の「秘密兵器」の1つは、主婦パートの存在でした>と著者も述べているように、日本社会は女性を労働市場から排除してきた。その結果としての貧困専業主婦。シングルマザー世帯の貧困率の高さも、思えば専業主婦率の高さと連動しているのよね。既婚女性の生活実態は昭和の頃とほとんど変わっていないのだ。

週刊朝日  2019年11月8日号