
前回の記事「まさに西部劇の世界! 米国ユタ州プロモントリー『UP119号とCP60号ジュピター』」では、アメリカ大陸横断鉄道150周年を記念して、ユタ州プロモントリー・サミットで開催された、UP119号とCP60号「ジュピター」によるセレモニーの模様をお伝えしたが、今回は、5月12日、実に57年ぶりに現役復帰を果たしたUP4014号機「ビッグボーイ」の運行の模様をお伝えしよう。
その前に、「ビッグボーイ」について簡単に解説すると、世界最大級の蒸気機関車が、ユニオン・パシフィック鉄道の4000形「ビッグボーイ」である。全長40.7メートルは、JR在来線車両2両分の長さに匹敵し、総重量は500トンを超える。日本最大のC62形が145トンなので、実に3.5倍近いヘビー級機関車だ。
1941年に誕生し、配置されたのはユタ州オグデンから、ワイオミング州のグリーンリバーに至るロッキー山脈越えの勾配区間だった。その勾配は1000分の11(1000メートル進む間に11メートル上昇)程度なので、日本の1000分の25、33などからみれば大したことがないように思えるが、なんと勾配区間は283キロも連続していた。この長大なロッキー越えに、それまでの蒸気機関車は重連(2両)、3重連(3両)を要したが、「ビッグボーイ」は1両で5000トンの貨物列車を軽々と牽引したという。けれども、近代化の波が訪れ、62年にディーゼル機関車にバトンタッチしたのであった。
それから57年の歳月を経た今年5月、「ビッグボーイ」は大陸横断鉄道開通150周年を記念して復活した。5月12日の早朝5時半、夜明け前のオグデン・ユニオン・ステーションで、私は初めて「ビッグボーイ」と対面した。デンバーの鉄道博物館で静態保存の「ビッグボーイ」を見たことはあったが、「生きているビッグボーイ」は初めてだった。

蒸気機関車は大きくなればなるほど、復元にかかる費用も運行コストも増大する。日本でも、復活した蒸気機関車は小型のC11形、C12形、C56形などが多く、大きくてもD51形、C61形までで、わが国最大のC62形の本線走行は、いまや思い出。それだけに「ビッグボーイ」の復活は大感激なのだ。

午前8時ちょうど、「ビッグボーイ」はUPエクスカージョントレインを牽引し、オグデン・ユニオン・ステーションをスタートする。それを撮影してからレンタカーで追いかけても間に合いそうだったが、何よりもロッキー山脈をバックに撮影したかったのでモーガンへと先回りし、カメラをセットして待つ。やがて、はるかかなたに煙が!
来た!「ビッグボーイ」だ。言葉にならない感動が五感を貫く。久々に鳥肌が立つのを感じながら夢中でシャッターを切った。
写真・文=櫻井寛
※『アサヒカメラ』2019年9月号から抜粋