セクシュアリティを追求する写真家が、日経新聞夕刊に連載したエッセイの単行本化。陰影が際立つ写真作品もふんだんに盛り込まれている。
取り上げる主題は実にさまざまで、写真のみには留まらない。漱石の『こころ』や菅原文太主演の『トラック野郎』シリーズなどをモチーフに、男性同士の同性愛についての考察を巡らせたりもする。
ただ、写真家だけにその視線は独特で、そぞろな街歩きを記録する中にも、視覚を刺激する鋭利な文章表現がちりばめられている。
対象に対する意識が弱いときほど、現像後に目を引く写真が撮れるという指摘は興味深い。背後にあるのは、「自意識という近代の遠近法の先にあるものを何とか見てみたい」という著者の願いだ。その願いが投影された特異なテキスト群を堪能したい。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2019年10月25日号