「シャツの汚れとか、首から肩の微妙なラインとか(中略)、すごく饒舌に語ります」。ひと目で鬼海が撮ったとわかる肖像写真を撮り続けてきた著者が、8人の創作者たちと時代や表現について語り合った。
誰でも写真を撮れる時代だが、著者は「表現として練り上げようとすると、簡単には写らない」という。なぜモノクロ、それもフィルムでないといけないのか。哲学問答めいたやりとりに含羞とおかしみが混じる。コンパクトカメラを手にした荒木経惟、腕組みした池澤夏樹、自然体の田口ランディら対談相手を撮ったポートレイトは、代表作の浅草の写真集に紛れ込んでも違和感がない。
「鬼海さんは絶対撮りません。美人なんか(笑)」と田口は太鼓判を押すが、もしアイドルを撮ったら、と好奇心をそそられる。
(朝山 実)
※週刊朝日 2019年10月18日号