京都で最も予約が取りにくいともいわれる料理店「草喰なかひがし」の店主が語る、料理と食材をめぐる哲学。
山里に育ち、祖父母が始めた宿坊に少年時代から出入りして、母親の素朴な料理の手伝いに勤しんだ経験が、料理人としての著者の原点。店を持つにあたり、自分らしいスタイルは何かを探る試行錯誤を重ねる中で、著者は「草を喰む」ことこそがその核心なのだと掴んでいく。
商店には並ばない規格外の野菜、季節感溢れる野草や山菜を、いかにおいしく無駄なく食べてもらうか。大根の皮からさえ風味豊かな出汁を取る手法は、失われた生活の知恵の復権ともいえる。
食材選びから調理法に至るまで、「自然に寄り添う」ことに徹底的にこだわるその姿勢には、効率を旨とする現代社会への大きな問いかけが隠されている。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2019年9月27日号