スタインウェイ社製グランドピアノを前に、仕事部屋で。作品の数々はここで産声を上げた(撮影/植田真紗美)
スタインウェイ社製グランドピアノを前に、仕事部屋で。作品の数々はここで産声を上げた(撮影/植田真紗美)
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 とにかくおもしろい。森山良子に矢野顕子、ユーミンに瀬戸内寂聴……。テレビで、ライブで披露されるモノマネは一級品だ。ピアノの弾き語り、映像を駆使した芸と、清水ミチコの世界は、単なる「お笑い」ではなく、緻密な分析にもとづいたもの。ラジオのはがき職人だったことが、芸能界へ足を踏み入れるきっかけとなった。唯一無二の存在となるまで、どんな道を歩んできたのか。

*  *  *

 九段下駅の階段を駆け上がると、きりり冴えわたる蒼空のすぐ手前に、その殿堂はそびえ立っていた。2019年1月2日、東京・日本武道館。まさに平成最後のお正月のさなか、約1万人を超える聴衆が集結し、開演の瞬間を待ちわびていた。午後4時。彼らの視線を一身に集め、舞台奈落から躍り出たのは清水ミチコ(59)。ピアノ弾き語りのモノマネなどで芸能界の第一線を駆け続ける彼女は、日本人アーティストの聖地と呼ばれるこの大舞台で、じつに6年連続でライブを敢行している。芸人としては勿論、日本じゅうのタレントを探してもほかに例を見ない唯一無二の存在だ。

 今回は森山良子(71)との共演となった。数十年にわたって清水にネタにされてきた森山は、いわば「モノマネの被害者」。1曲目はミュージカル「アニー」の主題曲「Tomorrow」の替え歌で、1番のサビのソロを森山は高らかに歌い上げた。

「積もろう、積もろう、ストレスそりゃ積もろう、モノマネの被害者~」

 すると2番は、森山の声を擬態した清水が応酬。きっちり3度離れた声の、まるで多重録音のように整った2部合唱で、次のサビを混ぜっ返した。

「ハモろう、ハモろう、ハモればわかる、みんなうやむや~」

 ピアノ弾き語り、映像を駆使した芸、アーティストの癖を忠実に再現した「〇〇作曲法」。そんな「ミッチャンワールド」が新春早々、3時間以上にわたって炸裂した。1万人にも及ぶ一斉の爆笑が弾ける空間は、この場所以外、どこにもない。

「よくぞ、わたくしのような者を取り上げてくれたな、と。『よくも』じゃなくて、『よくぞ』。フフフ」

 後日の取材時、森山は嬉しそうに話を切り出した。清水との出会いは20年以上前だが、モノマネの直接の「被害」に遭ったのは05年。清水による楽曲「この凄い血筋いっぱい」だ。森山のデビュー曲「この広い野原いっぱい」に乗せ、息子・森山直太朗と従兄弟・かまやつひろしを盛り込み、森山の声に擬態しながら歌った曲だ。

「母ギター、息子ギター、いとこギター(中略)さくら さくら ざわわ ざわわ ムッシュだけバン・バン・ババババ・ババババーン」(同曲から)

 当時、じっさいにライブ会場まで観に行ってその「罪」を確認したという森山は、こう振り返る。

「マネされることを嫌がるひともいるんですよ、デフォルメされるから。でも、わたしは嬉しかった。楽しかった。森山良子のすべてを認識して歌っていて、わたしなどよりも森山良子らしい」

 森山が最近、感銘を受けているのは、清水の「〇〇作曲法」だ。大胆不敵な転調を畳みかけるaiko、巻き舌で文語体の歌詞を絡ませる椎名林檎、サビの冒頭にパーカッションをつい入れがちなミスチル――。単なるマネではなく、緻密なアナリーゼ(楽曲分析)に基づきアーティストの癖を暴き出し、「いかにも」な曲を編み出していく。森山の親友・矢野顕子(64)も、「ホントにミッチャンって凄いよね。彼女はミュージシャンだよね」と称賛しているという。森山は力説する。

「コード進行、音楽の深い知識がなければ、分析などできません。音楽的レベルがどんどん高くなっている。ミュージシャンたちは、音楽家として清水ミチコという存在を捉えていると思います」

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