こんな本までマンガになっちゃうんだね。高野悦子原作・岡田鯛作画『コミック版 二十歳の原点』。今年は高野悦子の没後50年。彼女のベストセラーを下敷きにしたリノベーション版である。

 主人公は20歳の大学2年生・杉田莉奈。2018年10月、喫茶店でたまたま新潮文庫の『二十歳の原点』を開いた途端、1969年1月の京都にタイムスリップしてしまった。そこで出会ったひとりの女性。<私は高野悦子 よろしくね>。悦子が通う立命館大学に案内された莉奈は、大学構内が騒然としていることに驚く。

<学園闘争よ! 学生は大学当局の不正と断固闘ってるのよ!!>と悦子。<杉田さんの時代では何と闘っているの?>。その質問に莉奈は答えられない。<そんなコトをやって何か変わったりするんですか?>。<そうね…変わらないかもしれないわね でも間違っているコトは変えていこうとしないと……>。悦子の下宿で寝泊まりし、時間を飛び飛びしつつ、莉奈は東大安田講堂事件、沖縄の基地問題、立命館大への機動隊突入などを「同時代の出来事」として体験するのだが……。

 現代の若者があの時代をどう受け止めるのか。なかなか刺激的な設定である。実際、莉奈は身体を張って闘う学生たちや悦子の言葉・行動に大きな衝撃を受けるのだが、結論的にいうと、この作品は骨抜きの極みに堕してしまった。現代に戻った莉奈が出した答えは今の大学を辞め、教師になる夢をかなえるべく教育学部に入り直すことだった、って何だそれ!?

 高野悦子はたしかに闘争と自らの生き方の間で悩み、自ら命を絶ちはしたが、社会変革を夢見てはいたのである。ところが莉奈は現代の政治や社会問題にはまるで目を向けない。<高野さんの時代に行った意味がわかった気がするよ……>って、何もわかってないやんけ。現代の大学生なんてこんなものと高をくくったのか、現代の政治にはふれないと決めたのか。個人の生き方の問題にのみ矮小化された『二十歳の原点』。設定は悪くないのに、がっかりである。

週刊朝日  2019年9月6日号