沖縄では6月20日ごろ、本州でも7月20日ごろに梅雨が明けると本格的な夏が到来する。太平洋高気圧に覆われて天気が安定し、青空と青い海という夏らしい海風景となる。沖縄地方では梅雨明けからしばらくはカーチバイ(夏至南風)と呼ばれる南風が強く吹くが、7月も半ばを過ぎると次第に風は収まってくる。台風さえこなければ安定した晴天が続き、穏やかな海風景を撮影できるだろう。
【写真】奄美大島北部のビーチ。PLフィルターを活用し、海や空を深みのある青色に
※成瀬 亮「モノクロで夏富士を撮る」
梅雨明けから8月いっぱいくらいが夏の海風景のベストシーズン。9月でも晴れれば夏のようだが晴天率は次第に落ちていき、太陽は真上まで昇らず日差しはいくぶん優しく感じられるようになってくる。
強い日差しこそが夏の海を輝かせる立役者だが、撮影の際は日差しおよび暑さ対策が欠かせない。Tシャツ、短パンにサンダルなら涼しくて動きやすいが、日焼け止めは忘れずに塗っておこう。一日撮影する場合は途中で塗り直すぐらいの用心深さが欲しい。長袖シャツやラッシュガードのような羽織れるものを用意しておくと安全だ。無防備で屋外に出ているとやけどのようになってしまうので、夏の日差しを決して甘く見ないようにしよう。
もちろん帽子やサングラスも必需品である。クバ笠(沖縄の民芸品)や麦わら帽子のような幅広の帽子がオススメ。体力的にきつくなってきたら、無理せず木陰や車の中で休むようにしよう。
■平面的で同じような日中の海をどう撮るか
夏の海の青さを出すには順光またはトップライトで撮影するのがベストだ。海は平面なので斜光線でも立体感が出ることはなく、しっかりと海に光が当たる順光やトップライトでより青い色をとらえることを優先したい。島での撮影なら午前中は西海岸、トップライトとなる昼ごろはどこでもOK、午後は東海岸と回れば効率的に撮影できる。東海岸での朝日撮影、そして西海岸での夕日撮影もあるので天気のよい日はかなり忙しくなる。
ただ青い海と青い空はどこで撮影しても平面的で同じような写真になりがちだ。アダンやモンパノキのような海岸植物、または岩礁の形や洞窟のシルエットなどを取り入れれば変化をつけられる。特に広角レンズで海風景を広く撮ると単調になりやすいので、前景を生かすことを心がけたい。このとき、雲の動きにも注意を払ってタイミングをつかめると生き生きとした作品になる。
もくもくと青空に雲が出てきても1、2時間もすればすっきりとした青空が広がってくることは多い。また雲がなくて単調すぎる青空でも、太陽が高く昇るにつれてよい雲が出てくることもある。雲の動きは速いので、いい雲に成長しそうだと思ったら早めにここぞというスポットで待機するようにしたい。いい形の入道雲を見てから撮影場所に移動しても形が崩れてしまうことがほとんどなので、先を読んでタイミングを生かすことは大切だ。
また雲が多くて海色が映えないときは時間をあけて仕切り直すくらいの余裕がほしい。休憩を兼ねてランチでも食べながら、青空の復活を期待しよう。炎天下での待機は体力を消耗するので、うまくオンとオフを切り替えて撮影するのがベターだ。
■PLフィルターを効果的に使おう
青空や青い海を生かすにはPLフィルターをぜひ活用したい。空気中のちりによる乱反射を取り除くことで、夏らしい深い青色を再現できる。太陽から90度の方向の空に効果が大きく、特にトップライト時は水平方向に広がる青空や海色をとらえるのに威力を発揮する。ファインダーをのぞきながらフィルターを回転させ、効果が強く出るように調整してから撮影しよう。
日差したっぷりの砂浜では照り返しもあってモニターがどうしても見えづらくなる。モニターの明るさを最も明るく調整するか、ミラーレスカメラなら電子ビューファインダー(EVF)で確認するのもよいだろう。
■朝夕の海風景をさらにドラマチックに
風景がドラマチックに輝く朝夕は夏の海に限らず風景撮影のクライマックスだ。すっきりと水平線まで雲がない日だったら、真ん丸の太陽を超望遠レンズでねらうことができる。200ミリや300ミリ相当のレンズでは太陽をあまりアップにはできないので、800ミリ相当以上の超望遠レンズが欲しい。35ミリ判換算で焦点距離が倍になるマイクロフォーサーズのカメラなら、レンズが比較的コンパクトですむので太陽をアップにするのに有利だ。
超望遠レンズで朝日、夕日をアップでとらえられるのは、すっきりと水平線まで晴れた日に限られる。朝夕の多彩な表情をとらえるという意味では、風景のワンポイントとして朝日や夕日を撮影するのがオススメだ。見事な朝焼けや夕焼けとなれば焼けた空と海だけでも作品として成立する。
ただそんな条件に恵まれるのは1年間に数えるほどの日しかない。岩礁や木立のシルエットを生かせば、赤やだいだい色に輝く朝日や夕日を引き立たせやすい。明(朝日や夕日)と暗(シルエット)が生きて、メリハリのある朝夕の風景にできるのがメリットだ。昼間の撮影時に形のよい岩や木立があるところをチェックし、地図に記入しておくと次回以降の撮影の際にも役立つ。
なお、海岸での撮影では潮の満ち引きにも気を使いたい。奄美や沖縄で見られるマングローブは満潮だと根がほぼ隠れてしまい、干潮だと地面が干上がってしまうので、適度な潮位のほうがマングローブらしい写真に仕上がる。海辺に格好いい岩や洞窟があったらどのくらいの潮位で撮りやすいかも確認しておこう。昼間は波打ち際に形のよい岩が並んでいたのに、夕方は満潮で海に埋もれていたなんてこともありえる。干潮時は海岸を容易に歩けても、満潮時は水位が上がり撮影スポットにたどり着けないこともある。
また新舞子海岸(兵庫県たつの市)や御輿来海岸(熊本県宇土市)のように干潮時に美しい干潟が見られるところもあり、朝日や夕日が絡むとドラマチックだ。
朝日、夕日をとらえるにはゴースト対策も必須だ。最新のコーティングによりゴーストが出づらいレンズがオススメだが、ゴーストが出ないタイミングをねらうことも欠かせない。山の端から太陽が出た瞬間、また太陽が適度な厚みのある雲に隠れているときをねらったり、木立や岩で太陽を少し隠してやると強い光をとらえやすい。
なお、朝夕の明暗差が強い場面では階調補正機能も役立つ。前景をシルエットとしてつぶしてメリハリをつけるなら階調補正機能は「オフ」でよいが、シャドー部もしっかり見せたいなら効果を適宜調整すべきだ。日中は「オート」でよくても、朝夕は必要に応じて「強め」や「より強め」にしたほうが好結果を得られる。朝日、夕日がギラギラと輝くような強い逆光時なら、HDR機能を使うと明部と暗部のどちらも見たままの印象に仕上げやすい。
■たそがれどきの余韻を写す
朝日や夕日が空や雲を赤く染めるのはドラマチックだが、日の出前や日没後の青みのある静けさも魅力的だ。光が弱い時刻なので必然的にスローシャッターとなり、幻想的な海風景に仕上げられる。夕日のクライマックスが過ぎて、何か余韻のようなものが感じられる時刻でもある。
天候が安定しているとギラギラ輝くような朝日や夕日となるが、空を覆うような朝焼けや夕焼けに出合うことは少ない。むしろ台風が接近しているような天気の変わり目に見事な朝焼けや夕焼けに出合えることが多い。
日没後しばらくたってから空一面が見事な茜色に染まることもある。雨がやんで急に焼けてくることもあるので、不安定な天候のときは見かけの天気に惑わされず、とりあえず現場に向かうことも大切だ。日の出時刻には余裕を持って到着し、日の入り後もしばらく待機してチャンスを逃さないようにしよう。
写真・文=深澤 武
※アサヒカメラ2019年7月号から抜粋