異色の映画監督の後半生を長女が綴った。五社英雄の私生活は作品さながらに、修羅そのものであったことがわかる。

 妻が数億円の借金を残して失踪。在職していたフジテレビでは敏腕ディレクターとして名が売れていたが、出世コースからはずれ、生活は荒れに荒れる。短銃不法所持での逮捕、背中に彫り物。凄惨な環境下で「なめたらいかんぜよ」が流行語になった「鬼龍院花子の生涯」を世に送り出し、復活する。その後も「極道の妻たち」など女の情念を描いた作品を多く手がけた。

 死後30年近く経つ今、はみ出し者は生きにくい社会になり、五社のようなあくの強い男にはめったにお目にかかれなくなった。五社の存在感の強烈さを再認識すると同時に、読後に寂しさを抱いてしまう一冊でもある。(栗下直也)

週刊朝日  2019年6月7日号