中島敦から深沢七郎まで、26人の作家の墓を訪ねて回った随想集だ。

 夫や母や友人たちと待ち合わせ、行きか帰りには食事をとるのが恒例の著者。「永井荷風」の墓参では、荷風がなぜ日記を書くことに情熱を傾けたのかを考え、晩年は天気や食事ばかりだったことに思いをめぐらす。同世代の津村記久子さんが傾倒する「織田作之助」の墓を訪れる際、彼女が回数券で改札を通るのに驚くなど、些細なことに目をとめるのが面白い。「歌川国芳」の回では自身の葬儀について語る。「ぶすは作家になるな」と言われたトラウマから遺影写真でなく「死絵」が望みだという。江戸後期、歌舞伎役者が亡くなったときに出回ったもので、浮世絵師が人物絵を描いた。

 文学談話もいいが、合間に得られるこうした知識がありがたい。(朝山 実)

週刊朝日  2019年5月31日号