改元騒ぎで日本中が浮かれるなか、4月1日、改正出入国管理法が施行された。ドタバタと外国人労働者の受け入れを拡大した日本はこの先どうなるのだろうか?

 藤井太洋『東京の子』の舞台は2023年、東京オリンピック・パラリンピック後の東京である。1300万人だった東京の人口は3年で1600万人にまで増えた。増えた分はすべて外国人。

 五輪の競技場は<解体と復旧工事のために税金を食い尽くす負の遺産に成り果て>ており、<復旧見積もりは四兆円を超えて、東京オリンピック・パラリンピックの開催費用は十兆円を超えた>。資金回収のため国と都は民間への払い下げを図り<会場のほとんどは、ショッピングモールや大型の倉庫、タワーマンション、介護施設、そして大学へと姿を変えている>。ありそうな話じゃない?

 物語はしかし、この後いまのところはありそうもない施設の姿を描きだす。「東京人材開発大学校」、通称「東京デュアル」。国家戦略特区を利用した「働きながら学べる大学」で、学生数は4万人。学内には500社に及ぶサポーター企業のオフィスや工場が並び、学生は週3~4日ここで実際の業務に従事する。給与は月に12万円以上。労働組合も奨学金制度もあって、サポート企業に就職すれば奨学金の返済額も半減される。ところが外国人技能実習制度でベトナムから来た女性ファムは叫ぶのだ。<東京デュアルは、学生を人身売買してるのよ><借金をたてにして働かせるのは人身売買よ>

 主人公はかつて人気ユーチューバーだった仮部諌牟。戸籍を買ってこの名前になったというワケアリの青年だ。その彼がファムが先導するゼネストに巻き込まれ……というのが主なストーリーなんだけど、ちょっと村上龍風の、近未来SF労働小説ですかね。

 多額の学費と奨学金の返済に縛られて、卒業後の就職先も選べない学生たち。説得力のない点もあるけれど、人身売買という指摘はリアル。4年後の東京がどうなっているか。悲観的な観測を吹き飛ばすパワーは感じた。

週刊朝日  2019年4月19日号