むらかみ・やすひこ/1970年生まれ。大阪大学人間科学研究科教授・CiDER兼任教員。著書に『子どもたちがつくる町』『ケアとは何か』
むらかみ・やすひこ/1970年生まれ。大阪大学人間科学研究科教授・CiDER兼任教員。著書に『子どもたちがつくる町』『ケアとは何か』

■人権教育の遅れも問題

 宗教2世を考えるうえで、思い当たるのが、オウム真理教の一連の事件があった1995年ごろに盛んだった宗教団体の活動です。その当時の若者は現在50代くらいでしょうから、いま宗教2世と言われている人たちは、当時の若者の子ども世代にあたります。思い返せば、90年代は人権がおろそかにされていた時代でした。そんな時に心の救済という視点が現れて、当時の若者たちが宗教にハマっていった。ところが、オウムもテロリズムに注目が集まったために、人権問題は何一つ解決できないままに現在に至っているのだと思います。

──子どもたちのケアはどうしていけばいいのでしょうか。

 宗教関係者の手記を読むと、「自死」という言葉がちらっと出てきます。ある特定の環境の中に取り込まれてしまい、しかもその外側は「悪魔の世界」だったりするわけですから、逃げ場が死しかない場合もあり得ると思うんです。誰もが暮らしやすくて、誰も排除することがない、みんなお互いに寛容になるような社会の組み立てと、子どもを孤立させない居場所作りが必要です。

 日本の人権教育は遅れています。自分には、どういう人権があって、どう守られているか。お友だちの権利を侵害してはいけないのはなぜなのか──。信仰の自由があることや、お互いが尊重されるべきという人権教育がされていたら、特定の新興宗教を信じていると発言したとしても、問題ではなくなります。自分の体とジェンダーの権利を守るという意味でも、政治や宗教や性教育に目を向けることこそ大事な人権教育だと思います。それがなされてこなかったことが問題の背景の一つにあるだろうと感じます。

(構成・編集部/三島恵美子)

AERA 2022年12月19日号

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