村上さんはヤングケアラーを、家族の心配から逃れられない存在、とする。宗教に依存する親を心配する子どもたちもまさにヤングケアラーだ(撮影/今村拓馬)
村上さんはヤングケアラーを、家族の心配から逃れられない存在、とする。宗教に依存する親を心配する子どもたちもまさにヤングケアラーだ(撮影/今村拓馬)
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 ヤングケアラーのなかでも、宗教2世の問題は深刻だと指摘する研究者がいる。『「ヤングケアラー」とは誰か』の著者、村上靖彦・大阪大学教授に話を聞いた。AERA 2022年12月19日号の記事を紹介する。

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──著書では、宗教2世もある意味でヤングケアラーだったと書かれています。

 ヤングケアラーとは、一般には家族に代わって家事や介護を行っているために、学校に行けなくなったり、遊ぶ時間がなくなってしまうなど、生活上の困難を抱える子どもたちだと捉えられています。ところがヤングケアラーの体験者に聞き取りをしてみると、家事や家族の世話以上に、家族のことが心配で、その心配から逃れることができないという共通点がありました。家事や介護だけに留まらず、家族の心配から逃げることができない子たち──というのが、私が感じたヤングケアラーの姿でした。

■家庭内で深い悩み抱え

 新興宗教の布教活動をするお母さんを心配して、活動に参加する母親に付き添って行動していた宗教2世もいました。

 ここで大事なことは、子どもの権利が守られ、尊重されているのか、という視点です。具体的に言うと、子どもの安全安心だけではなく、学習する権利、遊ぶ権利、願いを尊重され意見を表明する権利、差別にあわない権利です。宗教2世の方たちの場合、これらの権利が侵害されているケースが多いわけです。

──宗教2世という意味では、山上徹也容疑者の家庭も父親の自死や兄の大病といったさまざまな問題がありました。

 山上容疑者の場合も、ここに当てはまると思います。親が宗教に依存している宗教2世の場合は、山上容疑者のように親も含めて家族内で深い悩みを抱えているケースも多く、加えて、子どもは宗教にのめり込む親も心配で仕方ない。ヤングケアラーの中でも、より複雑です。にもかかわらず、宗教という特定の環境に取り込まれ、逃げ場もなく、周囲が介入するのも難しい。宗教2世とヤングケアラーの問題は、とても深刻な問題です。

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