■クトゥパロン難民キャンプ/丘陵を埋め尽くす難民たちの家々。生まれる子供は年に2万人とか(撮影/阿部稔哉)
■クトゥパロン難民キャンプ/丘陵を埋め尽くす難民たちの家々。生まれる子供は年に2万人とか(撮影/阿部稔哉)
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 お金をかけずにどこまで世界を巡れるのか。30年前のバブル絶頂期に本誌で大人気だった連載『12万円の旅』シリーズが、帰ってきた。筆者で旅行作家の下川裕治さんは、いまや64歳。平成の終わりを目前にしたいま、同じコースで再び“貧乏旅”に挑戦する。最終回はバングラデシュ編。

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「12万円で世界を歩くリターンズ」も最終回。「歩く」ではなく、「12万円で暮らしてみよう」と、バングラデシュの村に入った。近くにあるチャンプルー寺から、朝の読経が流れてきた。5時。毎朝、この時刻に抑揚のない僧侶の声が村に響く。

■費用なんて忘れていいのだ 村人と密着できた暮らし

 竹を編んだだけの一枚壁。まだ外は暗いなか、隙間から明かりが漏れてくる。NGOが設置したLED街灯の光だった。窓はないが、外の様子が手にとるようにわかる。庭に入り込んだネコの息遣い。ネズミの足音。ヤモリの鳴き声。湿気を含んだひんやりとした空気……。

 蚊が入らないよう、さっと蚊帳から出る。難民キャンプから横流しされた懐中電灯を手に、外のトイレに行くため、いったん庭に出ると、村を濃い霧が覆っていた。庭のマンゴーの木が夜露にぬれていた。

今回の12万円旅のルート(週刊朝日2019年4月5日号から)
今回の12万円旅のルート(週刊朝日2019年4月5日号から)

 バングラデシュ南部のチョドリパラという村の一軒家を借りた。脇をミャンマー国境のナフ川が流れている。世帯数は115軒、人口約500人。暮らしているのは少数民族の仏教徒、ラカイン族である。

「12万円で暮らす」

 約30年前に刊行された『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)をたどる旅は、スマトラ島の赤道、アンナプルナのトレッキング、バスでアメリカ一周と続いた。総費用12万円。その金額で賄うコツのひとつは、早くまわることだった。日程が短くなれば食費や宿代が浮く。だから、旅は忙しい。

 前回のアメリカ編はその典型だった。宿に泊まれず、ひたすらバスに乗り続けた。その反動? そうかもしれない。アジアの村でゆっくり眠りたかった。費用は12万円だが……。

 バングラデシュの村が好きだった。南部のコックスバザールで、長く小学校の運営にかかわっていた。知人も多い。村の一軒家を探してくれるような気がした。

■クアラルンプール空港/日本からLCCを乗り継いでダッカへ(撮影/阿部稔哉)
■クアラルンプール空港/日本からLCCを乗り継いでダッカへ(撮影/阿部稔哉)

 2月、バングラデシュに向かった。東京と首都ダッカを結ぶ航空券は往復8万7432円だった。クアラルンプール乗り換えのLCC。ダッカからコックスバザールまでの夜行バスは2千タカ(約2660円)。残金は3万円弱。はたしてこの額で10日間暮らすことができるだろうか。

 家探しは難航した。予算の問題ではなかった。村の人たちは外国人に家を貸したことがなかったのだ。

 アパートなら……。しかしそこに難民景気が立ちはだかることになる。

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満室ばかりのアパート