3月に入りましたね。3月は三春(初春・仲春・晩春)でいう仲春にあたり、「春なかば」とも呼ぶ春の折り返しの月。
今年は3月6日から3月21日の「春分」の前日までが二十四節季の「啓蟄(けいちつ)」です。啓蟄とは、蟻や蛙など冬眠していた虫たちが穴を出てくるという意味で、春の陽気に誘われて、あらゆるものが活発に動き始める時季。けれども、暖かくなった3月でも、まれに雪が降ることがあります。名曲『なごり雪』は“最後の春の雪”という意味の季語なのですが、今回はそんな「春の雪」に関して調べてみました。

春に降る雪の種類いろいろ

まずは雪そのものの季語からご紹介。こんなのもあったの?と驚く季語があるかもしれませんよ。
はかなさの象徴「淡雪(あわゆき)」
「春の雪」の別の言い方で「春雪(しゅんせつ)」とも。春になって降る雪のことで、かなり温暖になってから思いがけず降ることが多い。雪片は大きく、積もらなく消えやすい。「牡丹雪(ぼたんゆき)」ともいい、同じ雪でも冬とは違い明るい感じがある。
知らないと読めない「斑雪(はだれゆき)」
「はだら雪」とも読む。斑とは、まばらの意味で、まばらに降り積もった春の雪、または解けかけてまばらに残っている雪のこと。まばらに降る雪自体をいうこともある。
最後の最後「雪の果(ゆきのはて)」
旧暦2月15日の涅槃会(ねはんえ)に降る雪といわれるが、実際には3月の終わり頃に降ることもある最後の雪のこと。「名残の雪(なごりのゆき)」「別れ雪」「雪の別れ」「忘れ雪」ともいい、やや惜しまれて詠嘆した言葉。
(参照:俳句歳時記(春~新年) 角川学芸出版 角川文庫/入門歳時記 大野林火・著 角川学芸出版)

降るばかりでない春の雪

春の雪は降るばかりではなく、山間部ではまだ多くの雪が残っています。次は春ならではの雪の様子を表す季語です。
雅な言葉のひとつ「雪間(ゆきま)」
降り積もった雪がところどころ解けている隙間のこと。雪は木々の周りから解け始め、ぽっかりと土が見えてくる。そこに芽吹き始めた草を「雪間草(ゆきまぐさ)」と呼ぶ。「雪のひま」とも。
夏まで見られる「残る雪」
「残雪」のこと。「雪残る」とも。雪の多い地域では雪の残る期間が長い。特に峰々の残雪と岩肌が織りなす「雪形(ゆきがた)」は、田植えや種まきの目安とされ、北アルプス爺が岳の“種まき爺さん”や白馬岳の“代掻き(しろかき)馬”などは有名。
水の原点「雪代(ゆきしろ)」
「雪しろ」とも。寒気がゆるみ、急に雪が溶けて川や海や野原に流れ出るものをいう。「雪濁り(ゆきにごり)」は、雪しろのため川や海が濁ること。雪しろが洪水のようになると「春出水(はるでみず)」といい災害をもたらすこともある。
春の喜び「雪解(ゆきげ)」
「雪解(ゆきどけ)」のことだが、“ゆきげ”とも呼ぶ。「雪解川(ゆきげがわ)」は、暖かくなると雪が一気に解け始め、ごうごうと音をたて川が増水することも。「雪解雫(ゆきげしずく)」は、軒などから滴る水が太陽の光を反射してまぶしい。ほかに「雪解水」「雪解風」「雪解野」など。

(参照:俳句歳時記(春~新年) 角川学芸出版 角川文庫/入門歳時記 大野林火・著 角川学芸出版)

北アルプス 爺が岳
北アルプス 爺が岳
雪解川(ゆきげがわ)
雪解川(ゆきげがわ)

雪がもたらす四季の文(あや)

3月は卒業式など別れの季節ですが、最後に降る雪も季節の分かれ目。雪との別れを果たして春を感じる日本ならではの言葉の数々がありましたね。
── 言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。
縦に長い日本列島。春といっても感覚は千差万別かもしれませんが、雪国の人にとっては雪解けが始まると本格的な春が訪れたことになり、忙しい季節の始まりです。

白馬岳の「代掻き馬」
白馬岳の「代掻き馬」