"万引き"と聞くと、どのような印象を持たれるでしょうか。
カンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した映画『万引き家族』で描かれるように貧しさゆえに盗む、非行少年がスリルを求めての行為、転売目的のプロ窃盗団の犯行、あるいは「クレプトマニア(窃盗症)」。
または、テレビ番組などで特集されるように、スーパーや大型ショッピングモールで万引きGメン(私服保安員)に取り押さえられ、バックヤードに呼び出された家族が泣き崩れる...といったシーンを思い浮かべる方もいるかもしれません。
メディアでも興味本位で軽く取り上げがちな万引き行為ですが、精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは、著書『万引き依存症』で、万引きは決して軽微な犯罪ではなく、物を盗むという窃盗であり、深刻な加害行為であると指摘します。
前著『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス刊)で注目を集めた斉藤さんは、依存症への専門治療プログラムを実施する大森榎本クリニックで、DV加害者や性犯罪加害者などの加害者臨床を専門にしています。
同書の中で、やめたくてもやめられず、万引き行為がどんどんエスカレートしてしまう状態は、自分の意思ではコントロール不能な「衝動制御障害」に陥っているのであり、依存症の病態として捉え直すことが必要だと述べています。
彼らに特有なのが「認知の歪み」。たとえば「たまたま魔が差してしまった」「少しぐらい盗っても許される」(同書より)という常套句が示唆するように、身勝手な理由で責任転嫁し、加害者にもかかわらず、まるで自分が被害者かのように捉えていると言います。
斉藤さんによれば、万引き犯には意外にも女性、しかも主婦に多いのだとか。
「臨床の場にいると女性のほうが家族の問題がより顕著に表れていると実感します。それは家庭内では女性のほうが抑圧される傾向にあるからだと思われます」(同書より)
背景には、日本社会に根強い性別役割分業、特に家庭内でのケア労働――ワンオペ育児や家事全般、老親の介護――を女性が担っていることを考察しています。
万引き犯の多くは、世間に流布するような「意志が弱い」「だらしない」性格ではなく、人一倍真面目で責任感があり意志が強い気質の持ち主であり、その反面、追い詰められた時に脆い人々であると言います。孤独や強いストレスにさらされた時の逃げ場を持たず、ストレスから逃れるために万引きという逸脱行為を選択してしまうと分析。
同書では、適切な医療につながれば依存症からの回復は不可能ではないこと、単純な厳罰化だけでは万引きを繰り返す常習者を止めることはできず、再犯防止のための治療プログラムが必須であると訴えています。
「現代人だからこそ陥る病理であり、だからこそ、誰ひとりとして『自分は絶対にならない』とは言えません」(同書より)
ある日突然、家族や友人など周囲の身近な人が加害者にならないとも限らない、万引き依存症。自分には関係ないことと切り捨てるのではなく、社会病理として捉え直す必要があるのではないでしょうか。
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