---タクシーの事例---

 タクシーに乗り込んできたのはスーツ姿の中年男性。かなり酔っぱらっている様子で、「まっすぐ、いや、その交差点を右!」と、ろれつの回らない口調で乗務員に指示している。

 乗務員は黙々と運転を続けた。しかし、不機嫌そうな乗客は「わかったか?返事がないぞ」と乗務員に絡んでくる。乗務員は、そのたびに「はい」と小声で応じるが、乗客はさらに「ちゃんと聞いているのか!」と迫ってくる。

 さすがに乗務員も嫌気がさして、「ですから、『はい』と言ってるじゃないですか」と答えてしまった。その瞬間、乗客が怒鳴り声を張り上げた。

「その態度はなんだ!客をナメてるのか!」

 乗客は後部座席から身を乗り出し、いまにも殴りかからんばかりだ。

(了)

 一般常識からすれば、乗務員に非はありません。乗務員にとって、酔っ払った客は、まさに「常識が通用しない、面倒なお客様」でしょう。

 しかし乗客にしてみれば、「困っている」からタクシーを拾ったのです。このケースで言えば、昼間は真面目に働いていても、この日は歩けないほど酔ってしまったのかもしれません。

 困っていることを抱えているという点では、クレーマーも同じです。病院通いをしているモンスターペイシェントなどは、その最たるものです。クレーム対応では、通常の接遇より細やかな目配り・気配りが求められるのは、ある意味で当然と言えるのです。

●「あいづち」から「S言葉」につなぐ

 では、こうした場合には、どのように対応すればいいのでしょうか?

 クレーム対応の経験が豊富な担当者なら、状況に応じてうまく切り返すことができるでしょう。中には、気のきいたジョークで一気に場をなごませることができるかもしれません。しかし、慣れないうちは、そんなことはできなくて当然です。

 そこで、D言葉を封印する簡単な方法があります。

 それは、D言葉を「S言葉」に変換することです。つまり、次のように「サ行」で始まる言葉に言い換えるのです。

「ですから」→「失礼いたしました」

「だって」→「承知いたしました」

「でも」→「すみません」

 たとえば、冒頭の役所の例でいえば「ここにあるじゃない!」と言われたら、「ですから」に代えて「失礼いたしました」と応じれば、余計な怒りを買うことはなかったはずです。その後で「私の説明不足でした。もう一度、ご説明いたします」とつなげばいいのです。

 また、相手の怒りを鎮め、解決の糸口を見つけるには「あいづち」で共感を示すことも重要です。

 基本的には、次のように3つのパターンのあいづちをマスターします。

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「さようでございますか」「おっしゃるとおりです」「◯◯◯◯◯◯か」