増田さんがこの物語を構想した背景には、愛知県春日井市での少年時代の原風景がある。

「原野でキジを網で追って焼いて食べたり、刺し網で川魚を獲って天ぷらにしたり、イナゴを佃煮にして食べたりする自然豊かな生活だった。それが僕が中1の頃くらいに突然何もいなくなった。農薬や化学肥料の影響なのでしょう。それまで日本には、地面から湧くようにあらゆる生物がいた。それは原風景としてあります」

「クリント・イーストウッドの『グラン・トリノ』の女性版をやりたかった」という、山奥の集落にただ一人住む83歳の女性が活躍するバトルシーンがすごい。闘う「動」のシーンと気配さえ殺さなければいけない「静」のシーンのコントラストが、脳から汗が出るような濃厚な読書体験をもたらす。

 襲い掛かってくる猿の背景には人間社会の変容が見える。単なる外敵というより、血と血が混じり合うようなドロドロの戦いのなかで共存するような、猿と人間の不思議な関係性が描かれている。

「猿と人間で、どちらが正しいのかわからない。猿の立場からしたら、人間の住む場所に集まらざるをえなくなったのは人間のせい。もしかしたらこちら側が猿で、猿のほうが人間なのかもしれない。書いている時は、猿の側にも心を寄せていたと思います」

 続編も予定されており、今後の展開も楽しみだ。(本誌・小柳暁子)

週刊朝日  2022年12月30日号

暮らしとモノ班 for promotion
携帯トイレと簡易トイレの違いってわかる?3タイプの使い分けと購入カタログ