BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2018」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは村山早紀著『百貨の魔法』です。
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本書は「本屋大賞2017」でノミネートされた『桜風堂ものがたり』の著者による新作。閉店が噂される老舗百貨店を守ろうとする人々の思いを描いた心温まるファンタージ―です。
前作『桜風堂ものがたり』で登場した銀河堂書店がテナントで入る百貨店「星野百貨店」が舞台。ファンにとってはなじみ深い風早(かざはや)の街であり、しかも「宝探しの月原」と呼ばれた、あの書店員・月原一整(つきはらいっせい)が勤務していた場所でもあります。
創業50年を迎える星野百貨店は、昭和の家族的な雰囲気を持つどこかなつかしい感覚を抱かせます。かつて子どもたちを夢中にした屋上遊園地、顧客をもてなすエレベーターガール......。もちろん従業員の待遇も例外ではなく、従業員用の食堂が昼夕無料、社内イベント多数など手厚い福利厚生のおかげで、従業員も和気あいあいと働く職場環境でした。それは社内結婚の多さにも如実に表れていました。
しかし、百貨店不況の影響は星野百貨店も避けられず、10数年前から経営が傾きます。東京の大手百貨店の系列入りするも、旧経営陣は人員削減の要求や手厚い従業員への処遇の切り捨てを受け入れませんでした。とうとう「閉店が近いのでは?」と衝撃的な噂が飛び交うようになります。
そうした中、星野百貨店七不思議のひとつ「夢を叶える魔法の猫」が店内に住むという逸話が従業員の間で話題になり、猫がいたとしたら何を願うのか考えをめぐらします。
明るく元気なエレベーターガール松浦(まつうら)いさな、仕事に熱いプライドを持つテナントの靴店主・百田咲子(ももたさきこ)、時計や宝飾品を扱うフロア責任者の佐藤健吾、別館にある風早郷土資料室に勤める早乙女一花(さおとめいちか)。それぞれが猫をきっかけに、百貨店の思い出や自分の過去を回想しながら、店を守る決意を新たにします。
そして、新設されたコンシェルジュに着任した美女「謎のコンシェルジュ結子ちゃん」こと芹沢結子(せりざわゆうこ)もその一人でした。創業者の星野誠一の幼馴染で大株主の女帝と恐れられる杉江まり子のお気に入りということもあって、謎が深まるばかり......。彼女は接客した星野百貨店に思い入れのある老夫婦にこう宣言します。
「お客様がいらっしゃる限り、当館はこの地に在り続けるだろうと思います。ここで変わらずお客様をお迎えする、それが星野百貨店の使命ですから」(本書より)
星野百貨店を守ることは、「誰かの思い出の欠片」を守ることにもなるのです。この物語には、時代は移り変わっても決して色あせない、そんな大切な"キラキラ"と輝き続ける思い出を守ろうとする従業員の想いが描かれています。
あなたにとっての大切な人やモノにまつわる"あのひととき"を思い浮かべながら、読んでみてはいかがでしょうか。