現在、「伝統」と呼ばれている習慣の多くが明治時代以降に定着したと聞いたら驚く人も多いかもしれない。

 例えば、喪服は黒色でなく、室町時代以降、江戸時代に入っても白色だったし、七五三は関東限定の地域イベントだった。正月の代名詞ともいえる初詣に至っては誕生したのは明治中期で、今、世間を揺るがしている相撲が「国技」と呼ばれ始めたのは国技館がつくられた明治末だ。

 歴史が浅いから価値が下がるわけではない。重要なのは、「伝統」と呼ばれる習慣の背後にはビジネスや権威付けをもくろむ人間が存在するという視点を持つことだと著者は指摘する。「伝統」の二文字が大好きな日本人にとっては耳が痛い話も多い。本書を読むと、我々がいかに深く考えずに前例を踏襲しているかに気づかされるだろう。

週刊朝日  2018年2月23日号