■ライター、研究者・トミヤマユキコ
(1)『生皮』(井上荒野 朝日新聞出版)
(2)『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(谷頭和希 集英社新書)
(3)『ベースボール・イズ・ミュージック!』(オカモト“MOBY”タクヤ 左右社)
読書はいまの自分にとって第一に仕事だから、作品に対して一歩引いたような感覚で読んでしまうが(1)は違った。ハラスメントの加害者/被害者のリアルすぎる描写にのみ込まれ打ちのめされた。(2)は目からうろこの都市論。ドンキから見える日本社会の姿がおもしろくて夢中で読んだ。(3)はおかもっちゃん(夫)の初単著。身びいきでなく、野球&音楽愛にあふれた良著だと思う(信じてほしい)!
■ライター・永江朗
(1)『黄金虫変奏曲』(R・パワーズ著、森慎一郎ほか訳 みすず書房)
(2)『地図と拳』(小川哲 集英社)
(3)『パンとサーカス』(島田雅彦 講談社)
(1)は長く翻訳が待たれていたアメリカ文学。若い男の恋と破滅を二つの時間で描く。遺伝子、バッハ、ポー、コンピュータ、そして図書館が絡まり合い、みごとな結末に。(2)はひとつの都市の生成と消滅を描く。タイトルに込められた意味がウクライナ戦争でリアルになった。(3)は安倍晋三銃撃事件を予想していたかのよう。サーカスには騙されないぞ、もっともっとパンをよこせ!
■福井県立大学名誉教授・中沢孝夫
(1)『危機の外交 岡本行夫自伝』岡本行夫 新潮社
(2)『アメリカとは何か』渡辺靖 岩波新書
(3)『行動経済学の処方箋』大竹文雄 中公新書
(1)日本の防衛力・防衛方法が問われている。しかし日本の外交は課題が異なっているように見えても、いつも同様の議論をしている。そして国家としての決定・決断は世界の動向からいつも遅れる。22年、最良の収穫本。(2)は第一人者による世界の縮図としての現代アメリカ論。(3)はアダム・スミスを援用しながら、教師がラクをするための大学運営になっているという指摘は大事だ。